第120話 いや、あ、うん、いや……うん……
教室に入ると、急に暑く感じる。
冬は寒さよりも、屋外と屋内の温度差が体にしんどいのではないか。特に電車の中はヤケに暑かったりする。
以前、試しに魔法で温度操作とかやってみたものの、暑い寒い以前に疲れるだけだった。
日本には四季があるから美しいという。確かにそのとおりだが代償も大きい。
人間にとっての最も幸福になれる気温とはどのくらいなのか。
考えながら、コートを教室の後ろにあるフックに掛けた。
およそ二週間ぶりの自席に座って、陰キャボッチを極めるべくスマホを眺めつつ、最近取った写真を眺めた。
ライブラリにあるのはほぼほぼプラチナキツネの写真だ。
特に昨日撮れたものは超が付くベストショット。暖房で温かくなった部屋で、風呂上がりでほかほかになり、調子こいて暖房の風の下でヘソ天になっている様子を激写したものだ。
それ以外にも丸くなってるのとか、肉球でスマホをいじってるのとか色々と撮っているのだがどれも平等に可愛いので、このプラチナキツネは罪だ。
「日戸~久しぶり」
画面に映るキツネを愛でていると、心底どうでもよく人畜無害な人間が登場した。
菅谷飛鳥。隣の席に座る、クラスの人気者。おまけに霊感があって妖怪が見える。
挨拶されたら返してやるくらいの礼儀ならあるので「久しぶり」とだけ返す。
寒い寒いと喚きながら、ほかのクラスメートたちと一通り挨拶して騒ぎに行っている。
今日もこの教室は
暫く経って、予冷が鳴り色々抱えたアラサー女子の担任が教室に入ってくる。
短時間のホームルームの後に早速始業式がある。
真冬の体育館と言う極寒の地で、長いこと校長先生とか生徒指導とかの有難いお話を拝聴し、教室に戻る。
ただそれだけの取るに足らない事だけ。
1時間ほど教室でまたホームルームをやり、あとは帰宅。冬休み明けの最初の1日なんて本当にその程度しかない。
帰ろうと思って、荷物を持ち教室の後ろにあるコートを取りに行こうと思った矢先、急に呼び止められた。
菅谷飛鳥が「ねえ、ちょっといい」と。特に何もなさそうな口調だが、かしこまったような雰囲気がある。
「USMって……知ってる?」
「……逆にそれどこで知った?」
知っているも何も、以前にソレの騒動で随分と働かせられたし、元旦にその噂を香燐に聞かされたばかりだ。
魔法が使える学生たちによって結成された団体で、最近は特に暴れまわっているらしく妖怪、怪異の類をとにかく見境なしに攻撃して回っている連中。
「いや……ちょっと色々あって」
「妖怪に襲われてUSMの人に助けられたみたいな何か?」
「概ねそんな感じ……」
軽く冗談で言ったつもりがまさかの当たりだったとは。災難なことに、これで彼女が妖怪がらみの事に巻き込まれるのを見たり聞いたりしたのは3回目だが、よく強く生き残っているものだ。悪運が強くてうまく生き残っているのか。
「……それで、USMがどうしたの」
「日戸が知ってたりするかなって思って、それだけ」
「ああ、そういうことか……。変なこと巻き込まれないようにくれぐれも気を付けて」
「うん、なんかあったら一番最初に日戸呼ぶわ」
「いや、あ、うん、いや……うん……」
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