第124話 世界一可愛いと思ってる

『一人の女性としてどう思ってるの』



 タブレットの画面に、具体的な質問が表示された。

 さては先程まで所謂恋バナというものでもしていたのだろう、と進は安易な予想をする。それ自体は大正解なのだが、どう答えるべきかは微妙に解りかねた。



「一人の女性として……か……」



 普段は意識しない要素だ。美冬は美冬であってそれ以外の何物でもなく、そのように認識している。強いて言うなら……貧乳だが美脚。甲斐甲斐しく、家事が上手。甘え上手。包容力も高い。非常に魅力的な女性。理想の具現化。



「世界一可愛いと思ってる……」



 その思考の結果、進は恥ずかしげもなくキョトンとして、さもそれが当然であるかのごとく言ってのけた。

 

 周りは「あ〜」という反応。

「求めてたのとはちょっと違う気がしなくもないけどまあ良いか……。アリス、録音止めて〜」

『うい』

 サラが最後にアリスへ言った一言を、進は、「ちょっと待って待って待って待って」と既に手遅れながらも何かを制止しようとタブレットに手を伸ばした。

「録音って、は!?」

『進が変なこと言ったら美冬と朝乃に報告しなきゃって思って』

「みふはまだしも、なんで姉さん??」

『なんとなく』

「なんとなくって……。ほんと、変なこと言わなくて良かった……」



 もう録音されてしまったのは仕方ないと、タブレットを置き直した。

 急に体温が上がって、変な汗が出てくる。

 こんなことを言っていたと本人に知られたら恥ずかしいにも程がある。

 可愛いの一言くらい面と向かって言ってやりたいモノだが、そんなタイミングも度胸も無いのだ。精々「美脚」と褒めるくらいで限界。

 本人が居なければ、いくらでも言えるのだが……。



 進が手で顔を仰いでいると、丁度良く美冬が会議室に帰ってきた。

 この微妙な空気が流れている空間に「何かありました?」と聞くが、葵が「何でもないですよ〜ちょっと進のことからかってただけ」と軽く笑って答えた。

「は? 誰の許可貰ってご主人様で遊んでるんですか。葵さんと言えども呪いますよ」

 それに対し、美冬は2割冗談、8割本気の怒気と笑顔で葵を睨みつけながら、進は自分だけのものだと、あるじの頭を後ろから抱え込んだ。

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