第249話 手探り状態
翌日。
昨日の夜にヴィクトルと接触する許可を貰ったことだし、すぐにでも中央通りの詰所に向かおうかとも思ったが……先に南の森で見かけた男の捜索をした方がいいだろう。
万が一にもヴィクトルに逃げられた際、すぐに男の情報を渡せるようにしておきたい。
もちろんのこと逃がすつもりは一切ないが、念には念を入れて動くのは危ない仕事を行う上での鉄則。
やることが決まったし、準備をして向かうと街に出るとするか。
安宿を出て、中央通りまで出てきたのはいいものの、南の森で見かけた男についての情報は何もないんだよな。
顔はハッキリと覚えているが、本当にエアトックの街にいるのかどうかも分からない。
あの時の身なりからして、いるとすれば邸宅街がある場所。
ただこの街はヨークウィッチと違って、明確な邸宅街と言えるエリアがない。
ちらほらと高級住宅が固まっている感じであり、探し回るのが少しめんどうくさいんだよな。
中央通りの北側に少しと、南側エリアの東に少し、それから東側エリアの四分の一ほどが一応邸宅街となっている。
範囲でいえば東側エリアが一番広いため、まずは東側エリアで探し回るとしよう。
顔以外の手掛かりがない以上、足で探し回るしかない。
面倒くさい気持ちを押し殺し、俺は東側エリアの邸宅街に向かう。
いつものように天井上に張り付き、上から広範囲を見下ろして待ち構えた。
特徴的な体型に服装だったため遠くからでもすぐに分かると思うが、外を出歩くようなタイプでもなさそうなのが懸念点だな。
長期戦を覚悟し、俺はとにかく屋根上から下を通る人間を観察し続けた。
朝から張り込みを始め、約半日が経過。
今のところの成果はゼロであり、何の情報も得られていない。
移動したい気持ちに駆られるが今日一日はここで張り込むと決めたため、手掛かりが見つかるか分からない場所で待機を続ける。
集中は切らさずに下を通る人間全てを注視していると、中央通りから歩いてきた人物の体型に目がいった。
南の森で見た男と同体型、服装も高価なものを見に着けており、ほぼほぼ同一人物なのだが……。
あれだけバッチリと覚えた顔と微妙に一致しない。
頬がこけており、目の下のクマも酷い。
目も血走っていて、顔色も土気色をしている。
顔だけ見るなら別人と判断していたところだが、脳裏を過ったのは手渡されていた違法ドラッグらしきブツ。
薬物を使用したことによる症状が出ているのであれば、あれだけ顔色が悪くなっていてもおかしくはない。
ここまで手掛かりゼロだったということもあり、俺は中央通りから歩いてきた男の後をつけることにした。
男はおぼつかない足取りで邸宅街の中に入って行くと、どの家にも入らずにそのまま素通り。
貧困街である西地区の面影のある場所まで行きつくと、路地裏のとある建物の中に入って行った。
怪しい建物だが、どうやら『クレイス』と似たような造りのバーのようで、まだ夕方ぐらいなのに中からは楽しそうな声が聞こえてくる。
さっきの男が中から出てくるまで待つかどうか悩んだが、バーであり人もたくさんいるようなら入っても大丈夫と判断し、俺は地下にあるバーに入った。
店の中は想像よりも三倍くらい広く、隣の人の声も聞こえないほどの爆音の音楽が流れている。
手前は酒を楽しめるカウンター席があり、奥はダンスフロアになっていた。
まぁダンスフロアといっても酔っ払いが雑に踊っているだけで、ただの広いスペースって感じの場所。
俺はすぐに店内を見渡し、南の森で見かけた男の姿を探したのだが、店内のどこにもいない。
他に部屋も見当たらないし、向かった先としてあり得るのは従業員用のバックルームだろうか。
トイレの可能性もあるが、男が入ってすぐに俺も店の中に入ったし、ダンスフロアの先にあるトイレに入ったというのは時間的にあり得ない。
こうなったら何とかしてでも、あのバックルームの先に行きたいが……客が多いためか従業員が三人もおり、従業員の目を盗んでバックルームに行くのは不可能。
従業員の目を盗んだとしても、客自体が多いし誰かしらには確実に見られるしな。
冒険者ギルドでトレバーに見つかっているってことが過り、ここは無茶なことはしないと決断。
隠密行動で侵入する案を即座に却下した俺は、大人しくバーカウンターに座った。
酒がこぼれているからかベタベタしていて不快な席であり、爆音で流れている音楽も非常に不愉快極まりない。
とりあえず店員を呼び出し、一番アルコール度数の高い酒を会話がし辛いため指さしで注文した。
会話もできないくらいの音楽のせいで聞き込みもできないため、とにかく度数の高い酒を飲みまくって注目を集める。
あまりにも雑な作戦だが、この店の客層的に絡んでくる奴がいると踏んでの行動。
誰からも相手にされなかった場合は、ここでバックルームから人が出てくるのをひたすら待つとしよう。
店にまで踏み込んだ割りにはおざなりな作戦だが、これぐらいしか手段がないため俺はとにかく出された酒を飲みまくることを行ったのだった。
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