第105話 約束
週末の休日。
この一週間は本当にハードであり、朝から昼までは配達。
昼から夕方過ぎまで店番をこなし、終業後から夜までは職人のところへ出向いて入念な話し合い。
そして話し合いを終えてからは、西の森へと出向いてフレイムセンチピード狩りを行うという日々を送っていた。
本当はフレイムセンチピードをまとめて狩って、諸々の手間を省きたかったのだが……。
ヨークウィッチから西の森までが意外に離れており、フレイムセンチピードを探して狩って剥ぎ取りまで行うと、一匹狩るだけで時間的に厳しいものがあった。
狩ったフレイムセンチピード一匹分の素材は一日でなくなってしまうし、睡眠時間を一時間弱くらいでこの一週間は過ごしていた。
やっと迎えた休日だが、眠気が酷くこのままずっと眠っていたい気分になる。
最近は休日を迎える度に睡眠を求めている気がするが、今日も今日とて眠っている時間なんてない。
忙しくて行けていなかった冒険者ギルドへと顔を出し、マイケルにフレイムセンチピードの件をまず伝える。
そしてその後は北の山まで赴き、頼まれていたギルド長の捜索を行わなくてはいけない。
スタナへのプレゼントも買いに行きたいのに、本当にいくら時間があっても足らない日々。
楽しいし非常に充実した毎日を送っているのだが、久しぶりにゆっくりと体を休めたいのもある。
贅沢な悩みを抱きながら、シャワーを浴びて無理やり目を覚まし、俺は冒険者ギルドへと向かった。
一番良いのはギルド長がギルドに戻っていることだが、あまり高望みはしない方がいい。
この後はギルド長を探しに行く――そう自分に言い聞かせてから、応接室の窓から冒険者ギルド内に侵入。
流石に鍵を閉めても無駄と学んだようで、鍵は開いていたため窓を壊すことなく中に入れた。
そのままの足取りで副ギルド長室へと向かい、俺はノックをしてから返事を待たずに中へと入った。
「返事を待たずに入ってきた時点で君だとは思ったよ。今回は窓を割ってはいないだろうね?」
「鍵が開いていたから普通に入った。俺だって窓を割りたくて割っていた訳じゃないからな」
「それなら良かったよ。今日はフレイムセンチピードの件と、ギルド長の捜索の約束を果たしに来てくれたのかね?」
「ああ。……というより、ギルド長はまだ戻っていないんだな」
「そうだ。一度も顔を見せていないよ」
自分の心に言い聞かせていたが、やはり心のどこかではいることを願っていたため、戻っていないと聞いてがっくりとしてしまう。
非常に面倒くさいが、北の山まで行って捜索をしなくてはいけなそうだ。
「ギルド長捜索の件は引き受ける。約束していた訳だしな」
「本当に助かるよ。私は未だに動くことができそうにないからね。連れ戻せるのも君だけと思うし、君だけが頼りなのだ」
「そこまで期待されるのは困る。死んでいたとしたら、当たり前だが連れ戻すことは不可能だからな」
「そこは心配いらないよ。ギルド長は絶対に死なないからね」
謎の信頼感があるのか、そう言い切ったマイケル。
まぁ伝えたことは伝えたし、死んでいたら死体の回収だけ行えば納得してくれるだろう。
「分かった。すぐに北の山に行って、連れ戻しに向かおう」
「ありがとう。私もフレイムセンチピードの件で動いていたよ。君がゴーサインを出せば、すぐに素材を集められる体制は整っている」
「本当か? 必要なのは確定したから、できる限り多くのフレイムセンチピードの素材が欲しい」
「やはり必要となったのだね。すぐにフレイムセンチピードの死体の買取を行わせてもらう。冒険者も喜んで死体を持ってくるはずだよ」
「金はどうしたらいい? 一体辺りどれくらい払えばいいのか教えてくれ」
「お金はいらないよ。色々と助けてもらった恩の一つとして私から返させてもらう。討伐依頼が頻繁に出されているから、高額で買い取りを行うつもりもないからね」
これはありがたい提案だな。
こっちとしても高い金銭を支払うことはできないため、ギルドが全負担してくれるというのなら、より高い利益を出すことができる。
「それでいいのか? 遠慮せずにその提案を受けさせてもらうぞ」
「もちろん構わないとも。とりあえず死体が溜まったら、君に受け渡させてもらう。欲しい部位とかっていうのはあるのかね?」
「外骨格だけ欲しいから、できるのであれば処理も行ってもらえると助かる」
「外骨格だけかね? てっきり牙か火炎袋を欲しているのだと思っていたけど、ますます君の考えていることが分からなくなったよ。……とりあえず処理の件についても了解した」
「それじゃよろしく頼む。ギルド長を連れ戻したら、すぐにここに連れてくるから待機しておいてくれ」
「分かった。こちらこそよろしく頼むよ」
俺はすぐに北の山に向かおうと思ったのだが、情報は聞いておこうと思い直し、北の山について尋ねることにした。
「……ちなみにだが、北の山のどこにいるのかってのは分かるか?」
「いや、申し訳ないが一切分からない。ただ、恐らく頂上付近にいるとは思うよ」
「なるほど。そういうことなら頂上付近を重点的に探してみる」
「ギルド長をよろしく頼むよ。それと私の方から北の山の情報を軽く教えておく」
マイケルから軽く北の山の情報を教えてもらってから、俺は冒険者ギルドを後にした。
とりあえず、これでフレイムセンチピードの素材問題は完璧に解決しただろう。
金銭もかからず、処理まで行ってくれるとのことだし、これは想定以上の成果だ。
打算的ではなかったが、マイケルを助けておいて良かったと心の底から思える出来事。
ギルド長の捜索も乗り気ではなかったが、またマイケルに恩を売れるということなら頑張れる。
頬を叩いて眠気を物理的に飛ばして気合いを入れてから、俺はヨークウィッチを出て北の山を目指した。
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