第104話 素材の適性
午前の配達を終えてから、昼過ぎ頃に『シャ・ノワール』へ戻ると、レスリーが店の前でソワソワとしながら立っているのが見えた。
店の中は客で混雑しており、ヴェラが慌ただしく働いているのにレスリーが突っ立っていることから、何か緊急で報告したいことがあることが分かる。
「レスリー、店の前で立ってどうしたんだ?」
「ジェイドッ! やっと戻ってきたぜ! 報告したいことが二つあるんだ!!」
「とりあえず落ち着け。店の方は大丈夫なのか? ヴェラが忙しそうにしているぞ」
「少しの間だけだから、踏ん張ってもらっている! まずはジェイドに報告が先だ!」
「分かった。店の前じゃアレだし、物置で話を聞く」
ヴェラのためにもすぐに話を聞くべく、一度物置へと移動しレスリーの話を伺った。
「それで、話ってのはなんだ?」
「一つは、朝に貰った素材が完璧らしい! ついさっき職人の若いのが来て、そう報告していったぞ!」
「そうか。あれが魔道具の素材として使えるなら、もう完成は近いかもしれないな」
「それで本当に大量に仕入れられる伝手はあるのか? 職人がかなり興奮気味で語ってたし、珍しい素材なんじゃねぇのか?」
「仕入れについては大丈夫だ。本格的に仕入れられるのは来週になるだろうが、ちゃんと仕入れられる伝手がある」
予想以上に職人たちからの返答が早かったし、すぐにマイケルに報告にいってもいいかもしれない。
とりあえずその間は……俺が西の森まで赴き、フレイムセンチピードを狩っても良さそうだ。
「ヨークウィッチに来たのも最近だと言うのに、よくそんな伝手を作れたな!」
「『シャ・ノワール』のお陰で、色々なところに顔を見せる機会が多いからな。ありがたいことに自然と知り合いが増えている」
「本当に頼もしい限りだ! 『シャ・ノワール』が俺の店じゃなくて、ジェイドの店みたいになっている気がするぞ!」
「そんなことはない。レスリーの店だからこそ、俺はこれだけ働いているんだからな」
「何はともあれ、俺が年で動けなくなってもジェイドがいりゃ安心だぜ! 何も考えることなく、店を任せることができる!」
「俺だって若くはないんだから、ヴェラ辺りに任せた方がいい」
レスリーの言葉は嬉しいが、店を継ぐとかは一切考えていない。
長生きしてもらって、とことん店主として頑張ってもらわなくてはな。
「それよりも、二つ目の報告ってのは何なんだ?」
「ああー、完全に頭から飛んでいたわ! 二つ目の報告は、行商人から返事の手紙が届いたんだ! 内容みたらぶったまげると思うぜ!」
そう言って差し出してきた手紙を受け取り、早速内容を確認してみる。
手紙の内容は煙玉の製造方法の対価について。
長々と感謝の言葉が綴られており、後半部分でようやく金の話へと移った。
行商人が申し出てきた煙玉の製造方法についての対価は――白金貨十枚。
小さな道具屋からしてみたら破格の金額だが、はたして正当な金額なのかが分からない。
売り上げの二%ぐらいを貰うって契約の方が、後々のことを考えると良い気もしてきてしまう。
「あれ……。もっと驚くかと思ったが、かなり微妙な反応をしているな! ジェイドは白金貨十枚じゃ不満か?」
「いや。決して不満じゃないが、別の契約方法がないかを考えていた。例えば売り上げの二%を貰うって方が将来的にはいいのではと思った」
「売り上げの二%? 煙玉一つで出る利益が銀貨一枚だから、五個売れてようやく銅貨一枚だぞ? 白金貨十枚になるまでには、えーっと……」
「五万個だな」
「そう! 五万も煙玉が売れる訳ねぇだろ!」
そう言われるとそうなんだが、レスリーと違ってもっと利益を出すように高値で売るだろうし、ダンジョン街での売れ行きも想像がつかない。
需要があるからこそ、こんな提案をしてきたと俺は思うんだが……今は目先の金を優先した方が良さそうだな。
「白金貨十枚出しても欲しいってことだろうから、俺はすぐに取り戻せると思うんだが……。向こうが売り上げの二%を払うって保証もないもんな。コルペールの街なんて手軽に行けない訳で、売り上げとかも誤魔化されたら分かりようもない」
「俺はそっちの心配はしてねぇが、普通に大金だし売っちまっていいんじゃねぇかって思ってる! 売った金の一割を二人に譲る約束をしているから、ジェイドとヴェラにも金貨五枚が入る訳だろ?」
「すぐに金貨五枚が手に入るのは大きいな。直近で散財してしまったし」
「だろ? 俺は魔道具で使う費用の補填になる! これで今作ってる魔道具が売れなかったとしても、全く痛くねぇからな!」
色々とごちゃごちゃ考えたが、売って目先の金を取った方が良いかもしれない。
惜しい決断になるかもしれないが、魔道具を無理言って作っている現状、レスリーのリスクを減らせるのであれば減らしてあげたい。
「分かった。この内容で了承の返事を送っていいと思う」
「了解した! ジェイドも納得してくれたなら安心だぜ! すぐに返事の手紙を書いて送るわ!」
「なんか半日で色々と動き出したな」
「魔道具の最終調整も入るだろうし、こっから更に忙しくなるぞ! ジェイドもよろしく頼むな!」
「ああ。できる限りのことはやらせてもらう」
こうしてレスリーと話し合いを終え、てんてこ舞いになっているヴェラのヘルプへと向かった。
色々と忙しくなってきたが、絶対に成功させるために全力を尽くそう。
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