第148話 暴発


 平原に着き、早速エアジストと風属性の魔石を取り出す。

 詳しい説明を受けていないが、くっつけるだけで暴発するとゲンマは言っていた。


 どうなるか想像もつかないため、とりあえず試してみるのが手っ取り早い。

 ヴェラを少し遠ざけてから、俺は左右の手で持った二つの鉱石をくっつけさせた。


 そして次の瞬間――エアジストに触れた風属性の魔石が光り輝き出し、乱気流のような風を一気に放出。

 平原に一瞬だけとてつもない強さの風が吹き荒れた。


 余りにも一瞬のことだったため、何が起こったのか頭が理解し切れていない。

 少し離れて見ていたヴェラも同じようで、口をぽかーんと開けて無言で俺を見つめている。


「……これは暴発したってことでいいんだよな?」

「少し離れて見ていたけど、完全に暴発していたと思う。つまり実験は成功?」

「いや、暴発はしたが思っていたような感じではなかったから成功とは言えない。もっと詳しく調べたい」


 一度離したエアジストと魔石をもう一度近づけてみたのだが、今度は何の反応もない。

 何度かぶつけてみたり、擦り合わせてもみたのだが……やはり一切の反応も示さないな。


 まさかとは思うが、あの一瞬で魔石に溜まっていた魔力を全て放出してしまったのか?

 先ほどの威力を考えるとありえる話なのだが、そうなってくると色々と大変になってくる。


 もちろん威力の調整もそうなんだが、一番考えてしまう問題は費用。

 一回試すごとに属性魔石を消費していたら、いくら金があっても足らない。

 やり方をしっかりと考えないと、先に金が尽きてしまう。


「その魔石、もう使えないの?」

「そうみたいだ。暴発というだけあって、調整もできずに全ての魔力を消費してしまったらしい」

「全然駄目じゃん。成功できるの?」

「やっていくしかない。とりあえず今日は五個を使って試せるだけ試す」

「試せるだけ試すって言っても、一回ごとに一個消費しちゃうんじゃ五回しか試せない」

「そこはなんとか工夫をするんだ」


 俺はまずエアジストを割って粉々にし、その欠片の一部を人差し指に乗せる。

 サイズが同じぐらいだったため、暴発の勢いが強かった可能性が高いと考えた。


 これぐらいの欠片ならば、暴発の威力を抑えられるだろうと思って再び触れさせたのだが……。

 起こった現象は先ほどと全く変わらず、魔力を全て使って暴発してしまった。

 

 指に乗るくらいの小さな欠片でも駄目なのか。

 風の動きを考えると、暴発具合を調整さえできれば吸引に持っていけそうな感じがしているんだけどな。


 どうしようかと頭を悩ませ、俺は更に小さな欠片を使って触れさせたのだがこれも駄目。

 今日使える魔石は早くも残り三つとなってしまった。


 どんなに小さくとも暴発してしまうということは、直接触れさせるのは絶対にしてはいけないということ。

 ならば、何かを間に挟んで近づけさせたらどうなるかを試してみるか。


「ヴェラ、ちょっと手伝ってもらえるか?」

「えっ? 結局、私も手伝うの?」

「俺一人じゃ試せない。暴発具合いを見る限り、死ぬ恐れはないと分かったから大丈夫だ」

「……分かった。で、私は何をすればいいの?」

「この石をゆっくりと近づけてほしい。あとその盾を貸してくれ」


 俺は小さく割ったエアジストをヴェラに手渡し、俺は風属性の魔石と間に挟む皮の盾を持つ。

 ヴェラはゆっくりと皮の盾にエアジストを近づけていき、皮の盾を挟んで触れた瞬間――僅かに魔石から風が吹き出た。


 さっきは威力が強すぎて今回は威力が弱すぎるが、間に何かを挟むことで調整できることは分かったな。

 あとは吸引のみを行わせる方法を模索するだけ。


 これが一番大変な作業だろうが、確実に吸引するような動作は行われている。

 どう暴発させるかで反応が変わるのだとしたら、色々と試してみる他ない。


「ひとまず成功したぞ。盾を挟んだことで暴発の威力が調整できた」

「へー、弱められるんだ。あとは何をすればいいの?」

「吸引のみを行わせたい。今は色々な挙動が一気に起こっている状態で、このままじゃアイテムに使用するのは無理だからな。ヴェラは何かアイデアはないか?」

「うーん……水に入れるとか、何かで包むとか? あとは魔石自体を加工するとか」

「加工か。ヴェラが出した案の中では、魔石を加工するのが一番効果がありそうだな」


 魔石の形によって暴発したときの挙動が変わるのであれば、加工して試していくのが一番いい気がしてきた。

 ただ、魔石は消耗品であるということが一番ネックなポイント。


 魔石の魔力が切れたら交換しないといけないため、魔石自体に加工を施すとなると交換する魔石も専用のものにしないといけなくなる。

 魔石を入れるケースのようなものを作り、そのケースを使って試していくのが良さそうだ。


 何にせよ、現段階で自力で試せるのはここまでだろう。

 まだ試せる魔石が二つ残っているが、無駄使いはせずに職人やレスリーと話した方がいいはず。

 

「とりあえず今日の実験はここまでだな。エアジストと魔石を触れさせることで暴発することも分かったし、暴発具合いも調整できることが分かった。後はじっくりと話して試していくのが良いと思う」

「だね。私とジェイドだけじゃ魔石がいくつあっても足らなそう」

「また魔石屋に行って聞いてもくる。それじゃヨークウィッチに戻るとするか」


 満足のいく結果かと言われたら微妙だが、着実に前へと進むことができたと思う。

 僅かでも光が見えただけで、俄然とやる気が出てくる。

 絶対に掃除用の魔道具を完成させ、『シャ・ノワール』の看板アイテムを作ってみせると俺は改めて心に誓った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る