第147話 一夜明けて
翌日。
昨日は色々と大変だったが、時間通りに起きることができた。
アジトを攻め込むのは早朝と言っていたため、もう既に決着がついていてもおかしくない時間。
どうなったが気になるため、様子を見に行きたい気持ちに駆られるが……マイケル自ら報告してくれると言っていた訳だし、俺がわざわざ見に行く必要はない。
気持ちを切り替え、俺は『シャ・ノワール』へと向かった。
外は特に騒ぎにはなっておらず、いつもと同じ光景。
街が荒れていないことに少し安堵しつつ、店の中に入った。
「今日はいつもより遅い。昨日も帰りが早かったし何かしてたの?」
「ちょっと疲れが溜まってたからゆっくり寝ただけだ」
先に出勤していたヴェラが、店に入るなりそう声を掛けてきた。
鋭いというかなんというか……俺のことを注視しているような感じがする。
「なんだ? ジェイドは疲れが溜まっているのか? 体調を崩されても困るし、少し長めの休暇を設けてもいいぞ!」
「ゆっくり寝たら完全に回復したから問題ない。心配かけて悪いな」
「店のために頑張ってくれているジェイドの心配をするのは当たり前だ! 店のこととか考えず、休みたい時はいつでも言ってくれ!」
笑顔で心配してくれたレスリーに対し、嘘をついたのが申し訳なくなる。
ただ『都影』のアジトに乗り込んで、主要人物を殺していたなんて口が裂けても言えないからな。
黙っていることへの罪悪感を覚えながらも、俺はレスリーの提案に小さく頷いた。
それからいつものように配達をこなし、昼過ぎからは店に立って接客を行った。
配達でも街に変わった様子はなく、客入りもいつもと変わらない……どころか少し多かったぐらい。
冒険者ギルドが『都影』のアジトを攻め入ったことに関しての影響も特に感じないまま、閉店の時間となって無事に一日が終了。
客入りが良かったこともあり、昨日よりも売り上げが良かったぐらいだ。
「ふぅー、今日も客がいっぱいで大変だったな!」
「本当にありがたい限りだな。それで、新しい従業員についてはどうなってるんだ?」
「実は三人から働きたいって応募があった! 面接を行ってからだが、大丈夫と判断したら三人とも雇うつもりでいる!」
「短い期間で三人から応募が来たっていうのも、店が繁盛しているのを感じる。ヴェラの時なんかずっと貼りだしてたのに、ヴェラ一人しか応募に来なかったもんな」
「えっ? 応募してたの私一人だけだったの?」
その事実を知らなかったようで、驚いた様子を見せたヴェラ。
応募したのも親だったし、当初は働くことに関して惰性でしかなかったから知らなくて当然か。
「そうだぜ! 口も態度も悪かったけど、なんとか人材が欲しかったから採用したんだ!」
「若いってだけで採用基準は満たしていた。俺は態度が引っかかっていたけど」
「なら、ちゃんと面接を受けたの無駄だったんだ」
「無駄ってことはねぇよ! 俺の面接の練習になった訳だしな!」
「練習って……。口開けたまま放心してただけじゃん」
「そんなことはない! ちゃんと面接を行っていたぞ!」
「絶対にしてなかった。変な人って印象しか残ってない」
当時のことを思い出し、あーだこーだと言い合っている二人。
この言い分はヴェラの方が正しいが、わざわざ加勢するほどのことではないため話を変えることにした。
「――それで面接はいつなんだ? 三人まとめて行うのか?」
「面接は明後日行うつもりだ! まとめてではないが、同じ日に約束してある!」
「明後日か。良い人材だと嬉しいな。もう直接は会ったのか?」
「一人以外は直接来たから会ったぞ! この二人は若くてハキハキとしていたから、恐らく採用すると思うぜ!」
「へー。もう一人はヴェラと同じように親が来たのか?」
「いや、ニアが対応したんだわ! おっさんだって言ってたから、ちょっと期待はできないが……ジェイドの件があるからな! 面接は行うことにした!」
若者二人とおっさん一人か。
若い人が増えてくれるのは嬉しいが、おっさんが増えるのは正直避けたいところ。
あくまで接客業なため、俺とレスリーだけでも圧が凄いからな。
仕事ができようが、見た目で客が避けてしまう可能性が高い。
「ニアとヴェラのお陰でおっさん率が下がってきたのに、新しくおっさんが入るのは避けたいけどな」
「まぁいいじゃねぇか! 良い奴そうなら、積極的に引き入れたいと思ってるぜ! 利益なら今の状態でも十分あげられているしな!」
「レスリーがそういう考えなら、俺も構わない」
あくまでもレスリーの店。
俺もレスリーのこの考えのお陰で救われた訳だし、絶対に取るなとまでは言うつもりはない。
「もう従業員の話はいいんじゃない? 明後日なれば全部分かるんだし。……それよりも魔道具について話したい。ジェイド、この後はすぐ帰らないよね?」
「ああ。今日は魔石を色々と試すつもりでいる」
『都影』関連で作業が一切できていなかったし、今日から掃除用魔道具を完成させるために動くつもり。
まずはエアジストを試すところからだな。
「やった。なら私も付き合う。どこでやるの?」
「平原に行こうと思っていたが、ヴェラがいるなら別の場所を考えるか」
「部屋ではできないの?」
「今回のはやめておいた方がいい」
「なら、平原まで出た方が良さそう。それか職人のところを貸してもらうか」
「邪魔はしたくないから……やっぱ平原まで行こう」
「――随分と楽しそうだな! 俺も混ざりたくなってくるぜ!」
「レスリーはレスリーで別でやることがあるだろ? こっちは任せてくれ」
「分かってるよ! 二人とも頼んだぜ!」
実験を行う場所を決めた俺達は、店でレスリーと別れて平原へと向かった。
ずっと待たされていた状態だったため、早くエアジストを試したい気持ちが強い。
『シャ・ノワール』を飛び出し、二人して早足で街の外に出たのだった。
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