第159話 いつもの日常
『都影』の幹部であるレッドを始末した翌日。
昨日は休日ながら久々に疲れたし、久しぶりに深い傷を負ってしまった。
まともに寝る時間もなく、若干の背中の痛みを感じながら『シャ・ノワール』に向かう。
色々と気になる点は残ってはいるものの、ひとまず『都影』に関しては安心してもいい段階には入ったはず。
報復として何か仕掛けてくる可能性はあるかもしれないが、ヨークウィッチに拠点を構えることはもうない。
体の疲労はあるものの、いつもよりも少しだけ晴れやかな気持ちで店内に入ると、レスリーとヴェラが何やら話し合っていた。
「お、クリスも来たか!」
「二人とも早いな。何を話していたんだ?」
「一昨日に面接をするって言っただろ? 明日から三人が来るから、どうしようか話していたんだわ!」
そういえば面接をするって話をしていたな。
色々と起こりすぎていて、新しい従業員の話は完全に頭から抜けていた。
それに三人ということは……おっさんも雇うことにしたのか。
俺はあまり乗り気ではないことを伝えたが、レスリーは面接次第と言っていたもんな。
「結局、おっさんも雇うことにしたのか。良い感じの人だったのか?」
「ああ! 俺やジェイドとはタイプが違う、清潔感のある上品な人だったぜ! 初老の紳士って感じだったな!」
「なるほど。確かにそっちのタイプなら、店番していたとしても入りやすいな。このお洒落な店からして、最初は店主が紳士な人をイメージしたのを今思い出した」
レスリーが出てきた時は驚いたもんな。
今では慣れてしまっているが、ミスマッチ感が半端ではない。
「いやいや、俺だって紳士だろうが!」
「性格は紳士だと思うが、見た目は紳士ではないな」
「そんなことねぇっての! ヴェラは俺が紳士だと思うよな?」
「思わないし、話が脱線してる。新しい従業員についての話に戻して」
ヴェラに諭され、納得いっていないながらもレスリーは話を従業員について戻した。
俺的にはレスリーが紳士をイメージしていたことに驚きだが、今は考えなくていい。
「……従業員の新しい配置だが、ジェイドはどう考えてる? 俺は新たに雇った若者二人を配達に回して、ジェイドを店の方に戻そうと思ってるんだ!」
「この間も言ったが、俺は絶対に配達の方がいい。午前中は配達で午後は店の方に回る。新しい従業員は特に配置を決めなくていいと思うぞ。ニアみたいに配達を希望しているとかではないんだろ?」
「ああ! 面接で聞いた限りではどっちでもいいと言ってくれた!」
「だったら、両方やらせて適性のある方に回すのがベストだな。おっさんは店の方に回すのは決定なのか?」
「前に他の道具屋で働いていたらしく、計算に接客も完璧だったから既に決定してる! 配達は流石に厳しそうな感じもあったしな!」
計算ができるのもありがたいが、何より接客が良いのであれば文句なしだな。
俺もヴェラもお世辞にも接客が良いとは言えない。
レスリーも新規の客にはたまに鬱陶しそうにされるし、接客業それも道具屋で働いていたというのはありがたい。
この能力で見た目も紳士ということなら、雇ったレスリーの目は正しかったんだな。
「なるほど。相当優秀な人のようだな」
「とりあえず明日会ってみたら分かるぞ! 新しい従業員については、ジェイドの言う通り一度両方やらせてみて考えることに決めた!」
「ああ、その方がいいと思う。新しい従業員に会えるのは非常に楽しみだ」
「全員良い人だったから期待していいぜ! 色々仕事を教えたり、仲良くしてやってくれ!」
親指を立ててそう言ってきたレスリーに頷き、従業員についての話が終わった。
そろそろ開店時間なため配達の準備を行い、配達に出ようと思ったのだが……。
「私の話がまだ」
ヴェラに服の袖を掴まれ、物置へ行くのを止められた。
「ヴェラも何か話があるのか?」
「ジェイドが早く帰っている間に、属性魔石の暴走についてかなり進んだ。魔道具を作ってる職人が色々と試せるものを作ってくれて、一人で色々と実験していたから見て欲しい」
「ヴェラ一人で進めてくれてたのか。任せきりですまなかった。暴走の制御はできるようになったってことか?」
「それは今日の業務終わりのお楽しみ。流石に時間はあるでしょ?」
「ああ、今日は大丈夫だ。どう進化しているのか見るのが楽しみだな」
ヴェラの表情がずっとニヤついているため、恐らくいい感じに暴走の制御ができていることは分かる。
ただどんな感じで暴走させられるようになったのかは、一切想像はつかないから本当に楽しみだ。
俺が『都影』に時間を割いている間、新しい魔道具はヴェラ達に任せっきりだったため、今日からは完成に向けて全力を尽くすつもりでいる。
とりあえず今日の業務終わりの報告を楽しみにしつつ、まずは通常の業務をしっかりとこなすとしよう。
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