第160話 スイッチ
配達をいつもの感じでこなしたつもりだったのだが、昨日の影響で体がキレているからか過去最速で配達し終えてしまった。
自分のことながら動きのキレが凄まじく、寝てリセットしたつもりだが、まだ暗殺者としてのスイッチが切れていないのが分かる。
レッドと護衛はいまいちだったが、シャパル達四人との戦闘はここ十年の中でトップクラスに楽しかった。
駆け引きや連携強度もそうだが、四人が四人共に実力者というのは非常に珍しく、大抵はワンマンか低いレベルでの均等が取れていることが多い。
目を瞑ると、まだ鮮明に覚えているため何度も味わうことができる。
それと暗殺から離れて見て分かったのだが、俺は恐らく戦闘狂なのだとはっきりと分かった。
幼い頃から命を削って戦闘を行い究極のスリルを味わってきたせいで、体が自然とそのスリルを求めてしまっている。
戦闘から遠い仕事として道具屋の店員を選んだつもりが、こうしてどっぷりと暗殺に近しいことを行っているし、色々と今後については考えなくてはいけない。
そんなことを考えつつ、昨日の報告のために冒険者ギルドへとやってきた。
配達が早く終わったため、この空き時間を利用して報告を行うつもり。
あの研究部屋についてはすぐに報告した方がいいし、レッドの死体と護衛の死体は軽く調べた後そのままの状態で放置してある。
腐ってしまう前にマイケルには伝えておかなければならない。
いつものように応接室から侵入し、誰にも気づかれないまま副ギルド長室へと到着。
部外者が当然のように歩いているのに、誰も何も言わないザル警備はどうにかした方がいいと思いつつも……。
ちゃんとしたら俺が面倒くさくなるため口には出さないまま、副ギルド長室に入った。
中にはエイルもおり、何故かマイケルは詰められている様子。
「お、おお! これはいいところに来てくれた! ギルド長がうるさくて、君からも弁明してほしいのだよ!」
「おい、マイケルてめぇ! うるさいってなんだ! お前が襲撃に俺を連れていくって約束したんだろうがッ!! 蓋を開けてみれば、強い奴は既にジェイドが倒しているってなんだそりゃ!!」
なるほど。
俺がアジトに襲撃を仕掛けたときに、エイルに声を掛けなかったことに対して憤慨している様子。
ただ襲撃を行った日から既に数日経過しているのに、未だに怒っているのか。
……いや、恐らくだが冒険者ギルドと兵士で一緒に襲撃を行った時も、マイケルはエイルを呼ばなかったのだろう。
隠し通そうとしたけどバレてしまい、今になって詰められているといった状況か。
戦闘能力はあれど襲撃には不向きな性格なため、マイケルの気持ちは非常に分かるどころか俺も賛同したが、擁護すると面倒くさくなりそうなため切り捨てよう。
「あれ? 俺はエイルが来れなくなったとマイケルから聞いていたぞ。てっきり体調でも崩したのかと思ったが、マイケルはエイルを誘わなかったのか」
そんな俺の言葉を聞き、目を丸くさせて口をパクパクとさせ始めたマイケル。
言葉が出ないというのは、正にこんな感じの状態を指す言葉だろう。
瞳に怒りを宿したエイルの強烈なげんこつを食らい、悶えるマイケルを見て俺も笑ってしまう。
強烈なげんこつだけに留まらず、この後もネチネチと言われ続けるだろうがそこはマイケルに任せるしかない。
わざわざ二人で面倒くさいことを味わう必要はないし、依頼を受けて成功させた特権として許してほしいところ。
「やっぱりマイケルじゃねぇか! 俺を除け者にしやがって!」
「だ、だってギルド長には隠密行動は無理じゃないですか! バレたら全てが失敗となりますので慎重にならざるを得なかったんです!」
「うるせぇ! 約束は約束だろ! もう一発げんこつを食らわせてやる!」
「ひぃぃぃぃぃ! 暴力反対!」
「……楽しそうにしているところ悪いが、俺の用件を先に済ませてもいいか? 時間が限られているんだ」
「楽しくねぇ!」
「楽しくないですよ!」
わちゃわちゃしているところに割って入り、先にこっちの用件を済ませる。
昼過ぎには店に戻りたいのに、今回は報告することが多いからな。
「話をしても大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だよ。用件とやらを聞かせてほしい」
「実は、昨日一人で『都影』と一戦交えた。そして、ヨークウィッチを取り仕切っていた幹部を殺したんだ」
「え? 『都影』と一戦交えて、幹部を殺した……? 情報が多すぎて整理が追いつかないよ」
「それだけではなく、地下に作っていた秘密の研究部屋も見つけた。そこの確認を冒険者ギルドにお願いしたい」
「ち、地下にある秘密の研究部屋? なんなんだね。その新情報のオンパレードは」
「全て昨日起こったことだから、俺自身も整理し切れていない。壊したりはせずにそのままの状態で放置してあるから、マイケルが確かめてみてくれ」
襲撃のことすら知らなかったエイルはもちろん何一つ理解できておらず、マイケルでさえも頭の整理が追い付いていない様子。
全てを事細かに説明するのは面倒なため、後はマイケルが自分で確認してもらうのが手っ取り早いだろう。
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