第161話 もう一つの組織
丸投げした感じだが、俺の説明を理解するのにも時間がかかる。
百聞は一見に如かずという言葉があるくらいだし、実際に見た方が理解するのも簡単なのは間違いない。
「分からないけど分かったよ。それで、その研究部屋というのはどこにあるのだね?」
「ここと同じ東地区の寂れた飲み屋街は分かるか?」
「んー? ちょっと思い当たらないね」
「そこは俺が分かるぜ! たまに飲みに行くからな!」
「その飲み屋街にある潰れたバーの地下室から、隠された研究部屋に行ける。分かりやすく壊してあるからすぐに見つかるはずだ」
「寂れた飲み屋街の潰れたバーだね。ここはギルド長に案内してもらって向かってみるよ」
「ああ。行ってみれば恐らく大半が理解できると思う。まずはそこに行ってみてほしい」
これでひとまずの報告は完了だろう。
後はあの地下室と研究部屋を見て、分からないことがあれば俺に直接聞きに来るはず。
その時に詳しい話をするのが、互いに面倒ごとを少なくできる。
「報告はそんなものかね? 他に何かあれば言っておいてほしい」
「俺からの報告はそんなところだ。それで一つ頼みたいことがあるんだがいいか?」
「頼みたいこと? 私にできることなら全然構わんよ」
「実はだが、『都影』の幹部の横にもう一体死体がある。幹部の護衛をしていた者の死体なんだが、その死体についてを冒険者ギルド主導で調べてほしい。そして何か分かったら俺に報告してほしいんだ」
「幹部とは別の死体? 色々と聞きたいことがあるが分かったよ。色々な伝手を使って調べさせてもらう。何か少しでも情報が分かり次第、すぐに報告させてもらうよ」
「なぁ! ジェイドは一体何が引っかかったんだ? その隣の男にさ! 普通は幹部の方が気になるだろ?」
伝えたいことも伝え終えたし、部屋を後にして『シャ・ノワール』へ戻ろうとしたのだが、エイルがそんなことを尋ねてきた。
マイケルには以前話していたことだから、エイルにも理由を話しても別に構わないか。
「マイケルには伝えたと思うが、『都影』は別の組織と手を組んでいる可能性が非常に高い。そして幹部の横で死んでいる人間が、その別の組織の一員であると俺は踏んでいる」
「なるほどな! だからその護衛の方を調べてくれって言ったのか! そんで、ジェイドが調べるってことはよ……その組織の奴らって強いのか?」
「質だけで言えば、『都影』よりも何倍も強い人間を集めている組織だと思う。組織の大きさは『都影』以下だろうが、強い者だけを集めた少数精鋭の組織って感じだ」
ほとんど俺の憶測でしかないが、ジーンから始まってアバルト。
そしてシャパル、シオン、フォラス、パレスに護衛と、これらは全て『都影』とは別の組織であると俺は踏んでいる。
強敵で唯一ヴァンダムだけが『都影』なのはテイトの話で分かっているが、ヴァンダム以外の強かった敵のほとんどがその別組織。
ここまで練度の高い組織なんて見たことがなかったため、強者だけを送り込んだか少数精鋭の二択しかない。
そして、あれだけの人数を捕まえて、組織の名前すら聞き出せなかったことを考えると後者である可能性が高い。
自決までの速度はほぼ即決で異常なまでの組織への忠誠心があることから、目をつけられて厄介なのは、今は『都影』よりもこっちの組織。
「なんだよ、なんだよ! その面白そうな組織はよォ!? 俺がぶっ倒してぇぜ!!」
「エイルも自分で探してみたらいい。他にも構成員がいるのだとしたら、確実にこの街の脅威になるだろうからな。冒険者ギルドとしても潰しておいて損はないはずだ」
「なぁ、マイケル! その組織とやらを探してきてもいいか?」
「別に構いませんけど、絶対に見つかりませんよ。私ですら足取りも掴めておらず、今回の件でようやく何か手掛かりを掴めそうって感じですから」
「大丈夫だ! 俺は獣並みに鼻が良いからな!」
訳の分からないことを自信満々に言うと、部屋を出て行こうとしていた俺を追い抜いて部屋から飛び出して行ってしまった。
本当に落ち着きがないというか、エイルのサポートを行っているマイケルに少しだけ同情してしまう。
「元気なのは何よりだが、色々と大変そうだな。見た目だけが大人な子供だ」
「本当に大変なことばかりだよ。ふふっ、その認識で間違っていないね。体だけ大きくなった子供。力が強いのが余計に厄介なのだよ」
「エイルについては何も協力はできないが、心労で倒れないことを祈っている」
「ギルド長にはもう慣れているから、倒れることはないだろうね。……それでは何か分かったら連絡する。こちらから聞きたいことがあっても訪ねるかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」
「ああ。宿になら来てくれても構わない」
マイケルに別れの言葉を告げてから、今度こそ副ギルド長室を後にした。
さて思った以上に長居してしまったため、早く戻って店の方の手伝いをするとしようか。
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