第5章
閑話 愚な選択
アバルトから最期の連絡があった後、ヨークウィッチに向かわせた面々からの連絡がパタリと途絶えてしまった。
ジーンの失敗を取り戻すべく、任務に向かわせた構成員は計六人。
今回の作戦のリーダーを務めさせたアバルト、サブリーダーのヴァラン。
それから『ブラッズカルト』の集の最強、シャパル、シオン、フォラス、パレスのパーティ。
知能が高く、戦闘能力に高い人物をリーダーに据え、全てをこなせるヴァランがサブリーダーとしてサポート。
そして、強い相手であろうと確実に仕留める最強の四人組を送り込み、過剰すぎる戦力を送り込んだつもりだったが……。
「連絡がないということは、失敗したということで間違いないのか」
壁の至るところにびっしりと本が並んでおり、机の上にも大量の本が積んである。
そんな書斎の机に肘を置いて頭を抱えながら、アバルトが俺に送ってきた最期の映像を何度も何度も繰り返し流し続ける。
記憶水晶に映し出されているのは、圧倒的な戦闘能力を有する敵。
動きからして同業者なのは間違いなく、同業者でも伝説と称されるであろう人間の動き。
暗い部屋のせいで所々しか見えないが、あのアバルトが一切何もさせてもらえないことからも手を出さずに引くのが大正解。
『ブラッズカルト』の決め事を破る事案になるが、トップとして逃げるという決断するのが正しいと分かっている。
……が、アバルトに関しては結成当社から『ブラッズカルト』に所属して支えてくれており、ヴァランに関しても古参の一人。
シャパル、シオン、フォラス、パレスの四人も俺を慕って多大な貢献をしてくれた。
ドライな関係が多い裏稼業では珍しく、結成の理由も相まって『ブラッズカルト』は絆の深い組織。
ジーンの仇も取れていないままで、『都影』から受けた依頼も失敗に終わっている状態。
例え『ブラッズカルト』が潰れることになろうとも、この人間を捕まえて仇を討つことを俺は止めるつもりはない。
他のメンバーも、このままおずおずと手を引くことで納得する者は一人もいないだろうしな。
愚な選択だと分かっていても仇を取る覚悟を決めた俺は、項垂れていた頭を上げてまずはやるべきことを明確化させる。
まず必要なのは、この映像に映っている人間の詳細な情報。
これだけの強さであれば、当てはまる人間はおのずと限られてくる。
王国内でいえば“顔無き殺人者”ノーフェイス、“死神”ダース・アウポール、“堕ちた英雄”アレクサンダーの三人くらい。
アレクサンダーは有名人であるためその存在は知っており、骨格等から違うことは確定しているから二人の内のどちらかか?
いや、国外から来た人間の可能性も高い。
今一番有名なのは帝国で大騒動を引き起こした、“勇者殺しの暗殺者”ジュウだろうか。
思い浮かぶのが一番有名なジュウなだけであり、他国まで広げるとなると当てはまる人物はもっとたくさんいるであろう。
まずはこの人間についてを徹底的に調べつつ、ヨークウィッチに諜報員を送り込む。
それから依頼を受けた『都影』と連絡を取り、少しでもこの人間についての情報を貰えるように尽力しよう。
俺達と同じように、この人間に全てを狂わさられた『都影』がどう動くのかも気になるが、もしもの場合は全面協力する覚悟でいる。
『ブラッズカルト』同様に復讐に燃えていることを祈りつつ、俺は立ち上がって書斎を後にした。
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