第158話 トカゲの尻尾
「質問が何個かある。一つ目は都影についてだ。ヨークウィッチでハートショットという違法ドラッグを製造しようとしていたことは知っている。都影はハートショットを使って、何をしようと企んでいたんだ?」
「と、都影の本部は一切絡んでいない内容だ。俺が逐一報告はしているが、全容は把握し切れていないと思う」
「ということは、お前が個人的に企てたことなのか?」
「俺も引き継いだだけだ。主導したのは俺の部下でもあったアヴァン。アヴァンはヨークウィッチを違法ドラッグで支配し、王都にハートショットを広める提案をしてきた。俺はその案を許可したってだけだ」
壮大な計画でもあるのかと思ったが、支部長のアヴァンが進めていたってだけだったのか。
計画に乗り出す際中で俺に嗅ぎつけられ、計画の半ばで殺されてしまった。
その計画にかなりの金を投資していたレッドが引くに引けず、計画を引き継いだってだけ。
こう聞くと行き当たりばったりな感じもするが、『ハートショット』の効果が本物なのだとしたら……。
俺が止めていなければ、王国を揺るがすような大事件に発展していた可能性は高い。
偶然が重なって計画が失敗した上に、殺されたアヴァンやレッドには少し同情するな。
「あまり練られていない計画だったんだな。……一つ聞いておきたいが、まだハートショットの製造を都影が諦めない可能性はあるのか?」
「ほぼ確実に撤退すると思う。つぎ込んだ金や人材を考えれば撤退できないだろうが、引き継ぐ者がいない。ハートショットを作れる研究員も逃げ出すようだしな」
「都影が大きな組織といえど、多大な被害を被らせることができたのか。それなら危険を承知で計画を潰せて良かった」
「怒りの行き場がないボスによって、ヨークウィッチに派遣された構成員は全員殺されるだろうな。それぐらいの被害を与えたとお前は喜んでいいぞ」
そう自虐的に笑ったレッド。
この言葉からも俺がこうして捕まえられなかったとて、一生『都影』から追われる身となっていたようだ。
「ちなみにそのボスって言うのは誰なんだ? 名前や他の肩書があるなら教えてくれ」
「『都影』のボスは有名人だ。王国で知らないものはいない」
「ちゃんとした表の顔があるのか。そのボスの名前を教えてくれ」
「名前を聞いたら驚くと思うぞ。都影のボスの名前は――う”っ! い、息が……で、できな」
ボスの名前を口にし掛けた瞬間、突然喉を押さえて苦しみ出したレッド。
目は一瞬にして黒く染まり、体中の血管が浮き出始めた。
俺はレッドのその様子を見て、すぐに短剣を抜いて首を刎ね飛ばす。
落ちた生首。地下室に飛び散る鮮血。
その光景を見た数人の研究員が悲鳴を上げた。
「騒ぐな。騒いだらお前らの首も刎ねることになる」
俺が静かに淡々と告げたことで、研究員は自分で自分の口を押えて黙った。
再び静かになったことを確認してから、俺は刎ねたレッドの首を調べる。
苦悶の表情を浮かべているが、長く苦しむ前に殺してあげることはできたはず。
情報を喋ったら苦しませずに殺す。それが“約束”だからな。
黒ずみ石のように硬くなっている皮膚を無理やり押し開け、口の中を調べてみる。
……やはり舌には刻印が描かれていたか。
マイケルを襲った女が連れていた護衛の二人に刻まれていたものよりも、より強力な刻印。
苦しんだタイミングからしても、ボスの情報を話そうとしたら死ぬような刻印がされていたのだろう。
幹部クラスなら大丈夫と高を括っていたが、全員平等に刻印を入れられていたのか。
レッドも普通に喋ろうとしたところを見ても、どんな刻印がされていたかまでは伝えられていなかった可能性が高い。
こんなことならば『都影』のボスの話は後回しにするべきだった。
……いや、回避できないたらればは止めよう。
少なからず情報を得られただけでも良しとしようか。
「……な、なぁ、俺達は見逃してもらえるのか?」
無言で思考している中、この沈黙に耐えられなくなった研究員のリーダーが声を震わせながら尋ねてきた。
この『ハートショット』の製造部屋はマイケルに教えるつもりであり、研究員達も共に引き渡した方がいいのは分かりきっているが、解放することを約束している。
「ああ、約束通り見逃そう。ただし条件が三つある。すぐにヨークウィッチを去ること。そのまま王国を抜け出ること。そして、裏稼業から完全に足を洗うことだ。戦闘を見たなら分かっていると思うが、俺は裏の人間。足を洗っていないと分かった時点で――暗殺する」
「ぜ、絶対に足を洗う! 命を助けてもらっただけでも儲けものだ! 二度と、二度と違法ドラッグは作らない」
「そうしてくれると助かる。俺も殺す手間が省けるからな。……技術があるなら真っ当な薬師でも目指せ」
地下の製造部屋にいた研究員達を一人ずつ順番に解放していく。
全員が街から出たのを確認してから、俺はレッドと護衛の死体を入念に確認。
地下室に何か残っていないかもしっかりと調査してから、暗殺者としての存在に気づかれそうな痕跡を消してから、製造部屋を後にした。
深夜でマイケルも冒険者ギルドにはいないため、今日の報告は明日行うとしよう。
得られるものは大きかったが、肝心の情報についてはいまいちの収穫。
ただ、『都影』をヨークウィッチから完全に撤退させることができただろうし、情報は惜しいが挙げた成果は大きい。
俺は人気の少ない真っ暗なヨークウィッチの街を静かに歩き、宿屋へと戻ったのだった。
――――――――――――――
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました!
第158話 トカゲの尻尾 にて第4章が終わりました。
そして、皆様に作者からお願いです。
現時点でかまいませんので、少しでもおもしろい、続きが気になる!
――少しでもそう思って頂けましたら!
ブックマ-クと☆☆☆をいただけると嬉しいです!!
つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!
5章以降も、頑張って執筆していこうというモチベ向上につながります!!
お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます