第157話 力量差
俺とレッドとの間に入り、剣を構えている護衛。
普段ならば相手の出を窺うところだが、状況が状況だけに俺から攻撃を仕掛けることに決めた。
シャパルのスキルのように、実戦向き且つ変わったスキルを持っていることを念頭に置きつつ、俺は短剣を構えて護衛に斬りかかる。
護衛は一歩も動くことはなく、近づく俺に対して剣を構えたまま静止状態を崩さない。
間合いに入り、ここから更に加速して仕留めにいく――そんなタイミングで、急に視界が漆黒の闇に包まれた。
俺は夜目が利くため、ただの暗闇ならば見えるはずなのだが……何も見えない。
つまりただの暗闇ではなく、スキルによって作り出された暗闇ということ。
俺の視界を奪い、そこから攻撃を転じるのか、もしくは逃げるかの択を取るつもりでいるのだろう。
シンプルながら良いスキルだが……残念ながら、俺は目が使えなくなったとしても聴覚、嗅覚ともに優れているため位置の特定は容易。
レッドには地面を這いつくばらせて逃がしつつ、護衛が左手に回り込んで斬りかかってきたが、その一撃を躱しつつ腹に拳を叩き込む。
「――ふグゥッ! し、視界を完全に奪うスキルなのに、な、なんでだ」
「目だけを頼りに動いていないからだ。俺を完全に撒くのであれば、そのスキルに加えて音爆弾に臭い玉でも使うんだったな」
独り言のように呟いた護衛の言葉に返事をしつつ、床に膝を着いた護衛の首を掻っ切った。
護衛が死んだと同時にスキルが解除されたようで、すぐに視界が元に戻った。
首から血を流し倒れている護衛と、その倒れた護衛を死にそうな表情で見ているレッド。
唯一の護衛が死んだことで、澄ました表情ではいられなくなったようだ。
レッドの髪を掴んで持ち上げ、椅子に無理やり座らせる。
拷問も覚悟で情報を聞き出すつもりだが、表情を見る限りでは何もせずと話しそう雰囲気があるな。
「お前には色々と聞きたいことがある。質問に答えてもらうぞ」
「……だ、誰が答えるものか。俺は『都影』の幹部だ。今もヨークウィッチの街にお前を探して動いてる奴らがいる。先ほど合図を送ったから、すぐにここへ駆けつけるぞ」
予想に反し、まだ希望があるからか強気の態度を見せてきたレッド。
俺を探している奴らというのは、先ほどの四人組か?
実力を考えたらあの四人である可能性が高いと思うが、あの四人の他にもいるのだとしたら厄介ではある。
あたかも全て知っているかのように見せ、レッドを揺さぶってみるとしよう。
「俺を探している奴らというのは、シャパル達のことか?」
俺がシャパルの名前を口にした瞬間、歪ませていた表情がみるみるうちに青ざめていった。
もう少し駆け引きがあっても良かったのだが、両足を折られて護衛も殺され縛り付けられたこの状態。
頼みの綱も駄目となったら、表情に出てしまうのも無理はないか。
「しゃ、シャパル……? なんのことだか分からない」
「シオン、フォラス、パレス。これらの名前も分からないか?」
続けざまに一緒にいた三人の名前も上げると、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
最初から誤魔化し切れていなかったが、この反応は流石に確定と言えるだろう。
「お、お前、まさか……」
「ああ。既にその四人とは戦闘を行った後だ。そして、その四人は既に死んでいる」
「あ、ありえない。絶対にありえない」
「ヴァンダムにアバルト。あと支部長のアヴァンも俺が殺した」
「全部、全部お前がやったのかァ!! くそッ、クソがあああアあアああ!!」
痛みを怒りが超えたらしく、縛りつけた椅子の上で大暴れし始めたレッド。
ただ拘束が解けるはずもなく、無暗に自分の体を傷つけるだけで終わった。
「暴れても無駄だ。誰もお前を助けにこない。後ろの研究員たちも『都影』を見限ったらしいからな」
「お、お前ら……生きて逃げられると思うなよ!」
「生きて逃げられないのはお前の方だ」
まずは爆発させた怒りを収めるべく、氷魔法で物理的に凍えさせていく。
今はアドレナリンが大量に出ていて痛みが分からない状態であろうため、痛みをゆっくりと思い出させていく。
レッドは次第に歯を鳴らし始め、ガタガタと体が震え出した。
そして寒さで怒りの状態を維持できなくなったのか、折れた両足の痛みで再び悶え始めた。
「段々と痛みが戻ってきたか? 苦しみたくないなら、俺の質問に答えろ」
「だ、誰が答え――」
即座に反論してきたレッドの足を蹴り上げた。
既に折れている足が刺激され、悲痛交じりの叫び声が地下室にこだまする。
「口答えできる立場じゃないことが分かっていないのか? ……本当に拷問して殺すぞ?」
脅し文句ではない本心からの言葉。
覗き込んだ俺の目を見て嘘ではないとようやく悟ったのか、汗を噴き出しながらゆっくりと頷いた。
研究員とは違ってレッドを殺すのは決定事項ではあるが、俺の質問に素直に答えたのならば苦しまずに殺すことを約束しよう。
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