第27話 心機一転


 ヴェラとの競争を行った翌日。

 いつもの日課をこなしてから、俺は『シャ・ノワール』へとやってきた。


 レスリーには昨日の時点で何があったか説明済みだから大丈夫だが、ヴェラが来るかどうかまだわからない。

 あれだけ舐め腐った態度を取っていた訳だし、プライドも中々に高そうだったから来ないと予想しているんだが……。


 俺は勢いよく店の扉を開けて中に入ると、そこにはレスリーと会話をしているヴェラの姿があった。


「おはよう、ジェイド! ヴェラの奴はちゃんと出勤してきたぜ! ジェイドがしっかりと言って聞かせてくれたんだな!」

「……来たのか。ということは、言うことは絶対に聞くということでいいんだな?」

「うん、言うことは聞く。速さで敵わないことはもう理解した」

「なら、俺としても歓迎だ。レスリーの言うことが絶対だからな」


 ヴェラが来た理由は不明だが、言うことを聞くというなら……まぁ構わないだろう。

 実力の一端とはいえ、ヴェラには見せてしまっているのが気掛かりだけど、流石に大問題に発展することはないはず。


「ジェイド、そう凄まなくて大丈夫だぜ! 朝一でやってきて、昨日の非礼を詫びてくれたからな! 今日から心機一転、誠心誠意働いてくれるってよ!」

「それなら良かった。新しい従業員を探さずに済むな」

「ああ! まぁこれからの働き次第だけどな!」


 何はともあれ、レスリーが嬉しそうにしてくれているからいいだろう。

 ヴェラは性格に難があっただけで、俺とレスリーにはない若さと見た目の良さを持っている。

 最低限のことをこなしてくれるだけで、『シャ・ノワール』にとっては有益な人材であることは間違いない。


「とりあえず昨日、大人げないことをしたことは詫びる。今日から同僚としてよろしく頼む」

「こちらこそ態度が悪くてごめんなさい。先輩として色々と教えてほしい」


 互いに軽く謝罪をしてから、軽く握手を交わしてヴェラと和解した。

 口調は一切変わっていないけど、確かに若干態度は柔らかくなった気がする。


「よしよし! 新たな『シャ・ノワール』の誕生だな! 二人とも店を盛り上げるためによろしく頼むぞ! 今日は業務終わりにヴェラの歓迎会を兼ねた親睦会でもやろうや!」

「……いや、私はすぐに帰——」

「流石に今日くらいは付き合え」


 即座に断ろうとしたヴェラにそうツッコミを入れてから、ひとまず業務に取り掛かることとなった。

 この状況でも断ることから、やはり根の部分は変わっていないことは分かったが、まぁ親睦会に関しては俺でも面倒くさいと思ってしまったからしょうがないか。

 そんなことを考えつつ、俺は一人で倉庫へと向かい配達の準備を始めた。



 そして、その日の夜。

 てんてこ舞いだった昨日とは違い、無事に業務を終えることができたレスリーとヴェラと共に、俺は王都の外れにある大衆酒場へとやってきていた。

 朝に言っていた親睦会を本当にやるらしく、面倒くさそうな表情を浮かべているヴェラと対照的に楽しそうなレスリーが印象的。


「今日はじゃんじゃか酒を呑んで、飯をたらふく食べてくれ! 全部俺のおごりだからよ!」

「奢りって大丈夫なのか? 俺は結構食べるぞ?」

「心配すんなって! 最近は売り上げも好調で懐も温かいからよ! それにジェイドは明日休みだろ? 泥酔しても問題ねぇしガンガン飲み食いしてくれ!」


 全て奢りなのはありがたいし、明日が休日なのを完全に忘れていた。

 最近は忙しすぎて休日返上で働いていたが、ヴェラが入ったことでなんとか俺が休んでも店が回ることが分かった。

 その分配達の荷物が溜まるが、翌日に頑張れば捌ききれるからな。


「ジェイドは明日休みなの? ズルい」

「全然ズルくないぞ! ここ最近は休みなしで働いてもらってたからな! ヴェラも一週間に一日は休みを設けるから、あと四日はちゃんと出勤してくれ!」

「休みは一週間に一度だけ……。少ないし聞いてなかった」

「働きたいならレスリーの言うことは絶対だ。それに一週間に一日休みが貰えるだけ十分だろ」


 酒をちびちび飲みながら文句を垂れるヴェラに注意すると、わざとらしくそっぽを向いた。

 この態度から見ても、やはり大きな変化はないように思える。

 レスリーの話では、昨日と違いしっかりと働いてくれたと言っていたが疑問に感じてしまうな。

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