第28話 親睦会


「まぁヴェラの態度が普通だ! 冒険者なんか週の半分くらいしか働かないしな!」

「冒険者ってそんなにダラけているのか?」

「基本は腕っぷしだけが取り柄のだらしない奴の集まりだからな。ルーキーの時は数をこなさないといけないけどよ、中堅になってくると週の半分仕事をこなすだけで酒と飯をたらふく食べて寝泊まりするだけの金は手に入る! 貯金は一切できないけどな!」


 確かに、前回俺に絡んできた冒険者達を思い返すと、しっかりと毎日依頼をこなしているようには思えない。

 逆に俺に指導をつけてくれと頼んできたルーキーのトレバーは、殺されかけながらも必死だったな。


 ……というか、ヴェラの件で頭から抜け落ちていたが明日が約束の二十日だ。

 休みで嬉しくなっていたが、指導をつけないといけないとなると一気にテンションが下がる。

 ヴェラだけでも面倒くさいのに、トレバーの指導もしなくちゃいけないなんてな。


「……ジェイド、どうした? 急にため息なんか吐いてよ!」

「いや、少し嫌なことを思い出しただけだ。それより、ヴェラは冒険者だった時はどんな感じだったんだ? ルーキーだし、毎日依頼をこなしていたのか?」

「ううん、週の半分は休んでた。私は能力は高かったから、すぐにシルバーランクまで上がれたし」

「し、シルバーだとッ!? ヴェラが冒険者とは聞いてたけど、シルバーランクだったのかよ!」


 そういえば、レスリーも元シルバーランクと以前言っていた気がする。

 ということは、レスリーとヴェラは冒険者だった時は同ランク帯だった訳か。


 ヴェラは現在二十一歳で、レスリーが冒険者を辞めた年齢は四十代後半と年齢に大分開きがあるから、冒険者としての才能はヴェラの方が圧倒的に上だったのが分かる。


「まだ二十一歳でシルバーランクって、相当優秀だったんじゃないのか? 軽くしか聞いてなかったけど、なんで冒険者を辞めたんだ? せっかくの親睦会だし教えてくれ」

「理由は特にない。前にも言ったけど、所属していたパーティが解散したからそのまま辞めた。新しいパーティを組むのも面倒くさかったから」

「面倒くさいって言ってもよ、元シルバーランクなら引く手数多だったろ! 冒険者なら危険だけど金だって楽に稼げるしな! 誘われるのを待つだけで良かったんじゃねぇのか?」

「……ん、まぁ誘われたけど人間関係を構築するのが嫌だった。冒険者って変な奴が多いし」


 お前が言うなと思わず言いそうになったが、ツッコむと確実に話が脱線するため言葉を呑み込む。


「冒険者自体に嫌気がさしたって感じだったのか。それで実家に戻り、半年間ダラダラと過ごしていたって訳だな」

「そう。冒険者の時に稼いでいたからお金には余裕はあったし、だらだらと過ごしてた」

「なるほどな! そのまましばらくは自堕落な生活をしようと思っていたけど、親に強制的に仕事の応募をさせられたって訳か!」


 金には特に困っておらず、働きたくないからクビになってもいい。

 だからこその、あの態度だったんだろう。


「ヴェラが冒険者を辞めた理由と、『シャ・ノワール』で働こうとした切っ掛けは分かった。……ただ、だとしたらなんで今日店に来たんだ?」


 正直、ヴェラが店に来た理由をずっと疑問に思っていた。

 クビを通達したはずだから、ヴェラにとっても辞める口実ができて都合が良かったはず。

 話を聞いてますます、再度働こうと思ったのか分からなくなった。


「…………分からない」


 しばらくの沈黙の後、ヴェラが発したのは分からないという言葉。

 分からないってことはないと思うんだが、言いづらいことって意味か?


「ジェイドもそうヅケヅケと聞かなくていいだろ! 心機一転働いてくれるってなったんだしよ! 言いづらいことなんだよな?」

「言いづらいっていうか、上手く説明できないだけ。ジェイドは正直ムカつくし、それ以上に私にムカついたって感じ。まぁダラダラとするのも飽きてきていたところだったし、働くならこの店が良いって思ったのもある」


 吐き捨てるようにそう呟いた後、ジョッキを手に取り一気にビールを呷った。

 無表情ながらも若干顔が赤くなっているし、本音を吐露して恥ずかしがっているのは若さを感じる。

 ……酒で酔っただけかもしれないが。


「何はともあれ、俺の店で働きたいって思ってくれたのは嬉しいぜ! ジェイドも俺以上に店のことを考えて働いてくれているし、ますます店が良くなる気がしてきた!」


 なんとなくヴェラに負けた気がして少し悔しいけど、店は確実に良くなるだろうな。

 やはり若くて見た目が良いってだけで、寄り付いてくれる人もいれば店の雰囲気もよくなる。


 心機一転して頑張るというのであれば、昨日までのことは忘れて俺もヴェラと仲良くしようか。

 そんなことを考えながら、俺は気分良さそうに酒を飲んでいるレスリーが満足いくまで親睦会に付き合ったのだった。


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