第280話 訓練
翌日の早朝。
まだ寝ているアラスターを起こさないように起きた俺は、身支度を済ませて部屋の外に出る。
昨日は帝都の街をぐるっと一周案内してもらった後、アラスター行きつけの店で食事もほどほどに酒を飲んだ。
アラスターは酒を久しぶりに飲んだとのことで、すぐに酔っぱらって眠ってしまい、今日に至るといった感じ。
アルフィとセルジで慣れていたが、普通はこんな感じだよな。
酔っぱらって寝落ちしかけている中でも酒を飲むという二人の行為が、異常だったのだと再確認できた。
さて、今日からは仮とはいえ帝国騎士として仕事を行う。
朝からゼノビアに呼び出されているため、早速隊長室に向かった。
ドアをノックし、返事があったのを確認してから中に入る。
かなり早めに来たのだが、ゼノビアは既に鎧を着込んでいてやる気満々だ。
「寝坊せずに来たな。今日から午後まではキッチリ働いてもらうぞ」
「大丈夫だ。ただ、騎士の業務についてさっぱりなんだが教えてくれるのか?」
「教えるというか、私の側近として動いてもらうからついてくればいいだけだ。ちなみに今日は一日訓練。当然一緒にこなしてもらうぞ」
「それぐらいのことでいいのか。それなら大丈夫そうだ」
「ふふふ、“それぐらいのこと”ときたか。ついてこられるのか見ものだな」
ゼノビアは楽しそうに笑うと、俺についてこいとジェスチャーを送ってから外へと出た。
初日で逃げ出す人が多いと噂のゼノビアの訓練。
どんなものか非常に楽しみだな。
「まずはウォームアップとしてストレッチを行う。鎧を着たまま行うからな」
「可動域が狭くてストレッチにならないんだが大丈夫なのか?」
「そこは無理やり伸ばしていくんだ。騎士は基本的に鎧を着て過ごすことが大半だからな。鎧で動くことに慣れておけ」
「かなり無茶苦茶だな。まぁ分かった。やれるだけやろう」
俺は言われた通りに無理やりストレッチを行っていく。
金属の鎧とはこれまで一切無縁だったこともあって、非常に動きにくいのが気になる。
単純な防御力もフィンブルドラゴンの鎧の方が上だろうし、何のために着ているのか分からなくなってくるが……あまり考えないようにストレッチを行った。
次はランニングを行うようで、これまた鎧にグレートヘルムを身に着けた状態でやるらしく、俺はゼノビアについていくようにランニングを開始。
ストレッチの時以上に鬱陶しく、金属の鎧を着た人間の動きがやたらと鈍い理由が真の意味で分かった気がする。
慣れないながらも甲冑を身に着けた状態で走り、ゼルビアに遅れることなくランニングを完走。
体内の熱の籠もるのと呼吸がしづらいという煩わしさはあるものの、これぐらいならまだまだ余裕だな。
「ほー。ちゃんとついてきたのは素晴らしいな」
「これぐらいのペースなら余裕だ。他の人はついてこられないのか?」
「私についてこられないのは当たり前。同じ量を走れる人間が一握り。そんな一握りの人間も次の訓練で脱落ってのがほとんどだ」
「帝国騎士と聞いて格式高いものと思っていたが、あまり凄い連中は集まってこないのか」
「昨日も言ったが、一番隊はいわゆる落ちこぼれが集められるからな。帝国騎士の中でも特に優秀なのは王直属の部隊に配属される訳で、一番隊にいるのはエアトックの兵士とそんなに変わらないかもな」
一番上が近衛兵。その下が一番隊以外の騎士。一番下が一番隊の騎士って感じなのか。
ゼノビアが厳しい訓練をさせているのも、色々な意味が込められているのだろう。
「ゼノビアは隊長とはいえど、なんで一番隊にいるんだ? 帝国騎士の中でも優秀なんだろ?」
「一番気楽だからだな。女ということがあって色々と面倒くさいのだよ。それに私はとびきりの美人だしな」
「自分で言うのやめた方がいいぞ」
「なぜだ? 事実だろうが」
胸を張って自信満々に答えたゼノビアだが、その声色はどこか寂しそうな感じもあった。
俺が思っている以上に色々なしがらみがありそうだ。
自由にやっているエイルを紹介してあげたい気持ちになるが、それは全てが終わってからだろう。
今はゼノビアのことよりも俺自身のことを考えないといけない。
「事実だろうが声高に言うものじゃないと思っただけだ。それより早く次の訓練に移ってくれ。体が冷めてしまう」
「自分から催促するとは本当に変わっているな。おっさんだからと舐めていたが、アルバートの推薦なだけはあって骨がある」
「本気でいいぞ。ついていく自信はある」
「なら、久しぶりに本気でやらせてもらうとしよう。この訓練に耐えきったら、特別に私が直接剣を見てやる。頑張ってついてこい」
ゼノビアは楽しそうに笑うと、俺に訓練のメニューを伝えてきた。
これが終わったら直接剣を見てくれる――か。
模擬戦でもしてくれるというなら楽しみだ。
帝国騎士の隊長の実力を見れるまたとない機会だし、訓練の段階でへばらないように気合いを入れるとしよう。
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