第281話 プライド


 基本的な訓練を始めてから半日が経過した。

 昼休みはあったものの、ほとんどぶっ通しで訓練を行っている状態。

 流石の俺でも鎧を着た状態だとしんどいが、俺以上に体力が削られている様子なのがゼノビア。


「ぜぇー、ぜぇー……。ま、まだついてくるのか」

「キツいがまだまだいけるぞ。俺よりもゼノビアの方がキツそうじゃないか?」

「な、何を言っている。まだまだこれからだ。私は絶対に負けないからな!」

「勝ち負けなんてあるのか? 早いところ剣の指導をつけてほしいんだが」

「う、うるさい! いいから私についてこい!」


 それから更に一時間ほどキツいだけの単調な訓練が続いたのだが、とうとう体力の限界を迎えたのかゼルビアが倒れた。

 何をやっているんだと言いたくなるが、まずは手当ての方が先だろう。


 訓練場から隊長室まで背負って運び、グレイトヘルムだけ脱がせて水を飲ませる。

 本当は鎧の方も脱がせた方がいいのだろうが、汗でとんでもないことになっていそうだから止めた。


「少しは落ち着いたか? 倒れるまでやるとか何しているんだ」

「すまない……。あまりにも余裕そうな感じでついてくるから、ついムキになってしまった」

「ムキになるポイントがおかしいだろ」

「くっ……! 返す言葉もない」


 この様子じゃ、側近が次々に辞めていくのはゼノビアに問題がありそうだな。

 初日でふるいにかけるべく、限界まで追い込みたいって気持ちもあるのだろうが、完全に趣味の部分もあると思う。


「とりあえず今日の指導は終わりってことで大丈夫か? 終わりなら今日はもう自由にさせてもらう」

「ああ、構わない。今日できなかった分の指導は明日させてもらう。……覚悟しておけ」

「じゃあ失礼する」


 最後の言葉的にまだ反省していないようだ。

 今日の分ということは、明日こそ剣の指導をつけてくれるってことだろう。


 あの様子じゃ本気でボコしにくるだろうし、それはそれで本気のゼノビアと戦えるのは楽しみだからいい。

 本質的な部分では、どことなくエイルを思い出す。


 腕が立つ女性はああいう感じなってしまうのか、それともああいう性格だからこそ強くなるのか。

 何にせよ、ゼノビアのことは明日また考えるとして――今日から早速情報集めに動くとしよう。


 兵舎内にあるシャワーを浴びてから、もう一度甲冑を着直し準備は万端。

 昨日、アラスターに目ぼしい場所を教えてもらったため、そこを巡っていくつもり。


 ただまぁ、まずは質屋に行ってみるか。

 昨日はアラスターがいたから深くまでは聞けなかったが、ケイティからクロに関する情報を頂きたい。

 若い店主だったこともあり若干不安な部分もあるが、俺は兵舎を出て質屋に向かった。


 中に入ると、昨日と同様に結構な人で賑わっている。

 かなり攻めている店なのにこの客入りは本当に凄いな。


「ケイティ、ちょっといいか?」


 接客は従業員に任せ、一人暇している様子のケイティに話かけた。

 俺に気づくなり嫌そうな表情を見せたものの、こっちに近づいてきてくれた。


「昨日の今日でもう来たのね。客ではないから、あまり歓迎したくないんだけど」

「情報料はキッチリと支払うからいいだろ。本当は昨日の内に聞きたかったんだが、昨日はアラスターがいたからな。ちなみにだが……俺のことは他の人間に黙っていてくれるのか?」

「どんな情報を聞きにきたのかを黙っていてほしいってこと? そりゃもちろん黙っているわよ。ベラベラ話しているようじゃ情報屋は務まらないから」

「それなら良かった。安心して尋ねることができる」


 実際はどうなのか分からないが、言質を取っておくだけでも大分違う。

 元々色をつけて情報料を渡すつもりだったが、情報次第では俺との取引に旨味を持たせるためにも更にプラスして金は払うとしよう。


「それで、そこまでして聞きたい情報って何かしら?」

「ブレナンって人間の情報だ。帝都で執政官をやっている人間だから知らないってことはないだろ?」

「なるほどね。どうしても他言されたくない理由は一発で分かったわ」


 口ぶりからも、ケイティは俺が思っている以上に情報を持っているようだ。

 表向きで情報屋を掲げている人間は信用できないが、こうして表向きは別の店を営業していて、直の情報を得ている情報屋は信用に値する。

 このことを長年暗殺者としてやってきた俺はよく知っている。


「ということは、ブレナンについての情報を持っているのか?」

「もちろん知っているわよ。ただ私の方こそ言いたいけど、情報源がここだということを絶対に口外しないと約束できる? この条件が呑めないなら、いくら金を積もうが情報は売れない」

「信じてもらえるか分からないが、俺は絶対に情報を口外しないと誓う。例えどんな拷問を受けてもな」

「……いいわ。信用してあげる。あなたがどこまで知っているか分からないけど、ブレナン・ジトーという顔は、複数の顔を持つ彼に対する一つでしかないの。ジトーは他にもいくつも顔を持っている。ここから先は少し場所を変えましょうか」


 最初の入りだけで、俺がこれまで尋ねてきた人間の誰よりも情報を持っていることが分かった。

 これはクロについて、貴重な情報を得ることができそうだ。

 奥の部屋に移動をしてから、話の続きを聞くことになった。



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新作投稿致しました!

辺境の村に住んでいた最強の主人公がおっさんにして初めて村を出て、栄えている街で無双しながら成りあがっていくお話です。

こちらは苦戦とかもなくストレスフリーな内容で執筆していく予定ですので、無双するおっさん主人公が好きな方はぜひ読んで頂けたら幸いです!

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