第46話 その後の情報
口ごもったテイトが喋り出すまで静かに待っていると、少し溜めたあと話し始めた。
「…………三日前までは何の噂も入っていなかったのですが、近日中に『都影』の幹部がヨークウィッチにやってくるという情報を聞きました。まだ噂の段階でして、実際にその幹部をこの目で見た訳ではないのですが、闇市も慌ただしくなり始めているので信憑性は相当高いと思います」
「この街を諦める可能性の方が高いと思っていたが、幹部が動き出すということは本格的に何が起こったかを捜索するかもな」
「ジェイドさんは大丈夫なんですか? もし見つかってしまったら確実に狙われますよね?」
「手掛かりになるようなものは一つも残していない。仮に狙われるとしたら、テイトから情報が漏れた時だな。それに狙われたとしても――全員返り討ちにする」
俺と支部長との戦闘を思い出したのか、一瞬にして顔を青ざめさせたテイト。
別に脅すつもりではなかったのだが、情報を漏らしたら殺すという脅しに捉えてしまったようだ。
「別にテイトを脅している訳じゃない。もしテイトの存在が『都影』にバレて見つかったとしたら、その時は俺の情報を話してくれて構わない。見たから分かると思うが、俺は強いからな」
「いえ、絶対に情報は漏らしません! こんな私に良くしてくれたジェイドさんに恩を仇で返すようなことはできないので!」
「その気持ちは嬉しいが、優先順位はしっかりと決めておいた方がいい。テイトにとって一番大事なのは誰だ?」
「……妹のケイトです」
「だったら、妹のためにも自分の身も大事にした方がいい。せめて誰かを守れるように強くなるまではな」
「――はい!」
そう伝えた俺をキラキラした目で見てくるテイト。
俺なんか戦闘に長けているだけで、人間としては『都影』の支部長と同等かそれ以下。
騙しているみたいで申し訳なくなってくるが、自分の身を大事にするということが伝わったのであればそれでいい。
それと……『都影』の幹部がこの街に来るというのは、あまり嬉しくない情報だ。
俺一人ならどうってことはないが、今は『シャ・ノワール』に属している人間。
レスリーには絶対に迷惑をかけたくないし、万が一が起こる前に徹底的に調べるか?
俺はどう行動するのが正解なのかを考えながら、無言のまま歩き続けた。
そんな問いの答えは出ないまま、あっという間に門の前へと到着。
入口の前では、いつものように気をつけの姿勢で待っているトレバーの姿が目に止まった。
パッと見る限りでは、あまり体に変化が表れている様子は見受けられないが……いや、若干引き締まっているか?
面白顔の印象が強く、そもそも体型をあまり覚えていない。
指導を行う人間としての威厳を保つため、絶対に笑わないように大きく深呼吸をし気を引き締める。
それから頬を思い切り叩いて気合いを入れたところで、トレバーに話かけてた。
「トレバー、今日もちゃんと来たんだな」
「あっ、おはようございます! じぇ、ジェイドさん!」
「おはよう。トレーニングの方はちゃんと行ったか?」
「はい! しんどかったですが、しっかりと言われた通りのトレーニングは行ってきました! ……それと、一つ気になることがあるんですが、後ろの女性の方は誰ですか?」
テイトを指さし、首を傾げながら尋ねてきたトレバー。
口をぽかーんと開けながら、首をしきりに傾げる姿は本当に犬みたいだな。
「トレバーと一緒に俺が新しく指導をする人物だ。互いに自己紹介をしてくれ」
「はい! 私はテイトと言います。今日から一緒に指導を受ける――先輩としてよろしくお願いします!」
「ぼ、僕が先輩!? せ、先輩か……」
先輩と言われまんざらでもないようで、にんまりとしながら口角をピクピクとさせている。
先輩後輩ではなく対等だ――口角をピクつかせているトレバーを見て、そう伝えようか迷ったのだが、なんとなく面白くなりそうな展開になりそうと直感的に思った俺は言葉を呑んだ。
「トレバーも自己紹介しろ」
「あっ、はい! 僕はトレバー・ブリッカーです。い、一応先輩として教えられることは教えるから、なんでも聞いてくれて大丈夫だから!」
「分かりました。是非教えてください」
先輩という言葉に感化されてか、先輩風を吹かし始めたトレバー。
一ヶ月前のトレバーを見る限りでは、テイトに教えられることは何一つないと思うが……どれだけ成長したかに期待だな。
「挨拶も終えたところだし、早速街の外に出よう。二人がどれだけ成長したのか早く見たい」
「僕もジェイドさんにトレーニングの成果を見せるのが楽しみです!」
「私も精一杯ついていけるように頑張ります!」
気合い十分の二人を連れて、前回トレバーを指導した開けた平原へとやってきた。
まずは二人のトレーニングの成果から見たいな。
パーティを組ませる訳だし、二人同時に俺に攻撃させるか?
どういった方法で成果を見るか悩んでいたところ、トレバーがおもむろに一歩前に出てきた。
「ジェイドさん! テイトと僕とで試合をさせてもらえませんか? その試合を見れば成長した姿が分かってもらえると思います!」
「いや、それは止めておい――」
「大丈夫です。ちゃんと手加減はしますから!」
親指を立てて、そう宣言してきたトレバー。
俺はトレバーが負けるから止めたほうがいいと言おうとしたのだが、まさかの手加減する発言に……笑いそうになる。
トレーニングをして自信がついたのだろうけど、前回も俺相手に気遣ってきたし根が優しいんだろうけど、自信過剰にも思えるから面白いんだろうな。
何度か呼吸を行って意識を分散させ、笑いがこみあげてくるのを押さえ込んでから言葉を返す。
「分かった。トレバーがやりたい言うならやればいい。その代わり真剣じゃなくて、木の枝を剣に見立てて模擬戦を行ってくれ。テイトもいいか?」
「はい。大丈夫です」
こうしてテイト対トレバーの模擬戦が行われることになった。
トレバーのメンタルを考えるのであれば戦わせない方がいいんだろうが、何しろトレバーから言い出しているからな。
凄い成長している可能性がないこともない訳だし、やりたいならやらせた方がいい。
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