第45話 成長
ヴェラと共にアイテム開発を行った日から、五日が経過した。
採用してもらった火炎瓶についてはまだ発売されておらず、俺の休暇明けの明日から販売する予定らしい。
売れるかどうか分からないが製作費がかからないということで、レスリーは百個も制作していると自慢気に話していた。
埃をかぶっているレスリー作のアイテムとは違い、実用的だしいつかは捌けるとは思うが、百個となるとかなり怪しいライン。
とりあえず火炎瓶については明日考えるとして、今日の休日のことだけを考えよう。
昨日は給料日で、前回からは大幅に増えてはいないがしっかりと給料を貰うことができた。
休日も結局金はあまり使っていないし、一ヶ月の生活費である金貨三枚を抜いた今の手持ちは――金貨六枚、銀貨二枚、銅貨五枚。
このヨークウィッチの街に来た時には、考えられないほどの大金を手にしている。
とは言っても、一泊銅貨三枚のボロ宿に泊まっているから金を貯めれているだけで、ヨークウィッチの宿屋の一泊平均金額は銀貨二枚。
極貧生活から一般的な生活までグレードを上げると、休日に使える金がゼロになるぐらいにはカツカツではある。
今の安宿で露店市で買った安飯を食らう生活に一切の不満もないし、もう少し金が手に入るまではこの極貧生活を続けるつもり。
不満はないと言っても、このかび臭いぺったんこの布団が暖かい布団に入るとは思えないし、いつかは極貧生活から抜け出したいとは思っているからな。
そんなことを考えながら朝の準備を済ませた俺は、まずは闇市へ向かう。
そう。今日はトレバーとテイトに指導の約束している二十日であり、初めて二人の顔を合わせる日でもある。
結局トレバーに何の連絡もしていない状況だが、恐らくなんとかなるはず。
そんな楽観的な考えで安宿を出た俺は、テイトを迎えに行くために闇市へと向かった。
闇市は朝なのにも関わらずどんよりと空気が重く、路上で寝ている薬物中毒者が目立つ。
酔っ払いとの見分けのつけ方は臭いで、違法薬物を使用している人間はツンと鼻を衝く酸っぱい臭いがする。
普通の人間よりも五感が鋭い俺にとってはキツい場所だが、口呼吸でなるべく臭いを嗅がないようにしながら、この間テイトを見かけた崩れた廃屋を目指した。
独特な足音なため耳を澄ませながら向かっていたのだが、崩れた廃屋の方向からテイトの足音が聞こえる。
最後に会ってから三週間は空いていたし、『都影』の件で何か問題があればここを離れていることも考えていたが、何事もなかったようで良かった。
少し歩く速度を上げて崩れた廃屋へ近づくと――廃屋の前にテイトがいた。
これから指導するというのに素振りをしており、滝のような汗を流しながら俺のあげた短剣を必死になって振っていた。
今日だけでなく、この三週間しっかりと俺が教えた通りに振っていたようで、予想していたよりも大分形になっているのが一目で分かった。
「テイト。今日も短剣を振っていたのか」
そう声を掛けると慌てた様子で俺の方を向き、ぺこぺこと何度もお辞儀をしてきた。
「ジェイドさん! ちゃんと約束を覚えていてくれたんですね!」
「俺から出した約束だし、忘れる訳がない。もう準備は万全なのか?」
「あっ――申し訳ありません! 着替えだけ済ませてきてもいいですか?」
「もちろん構わない」
滝のような汗を流れているため、服は当然のようにびしょびしょ。
これから戦闘の指導を行うとはいえ、一応トレバーとは初めて会う訳だからな。
少しくらいは身を整えたいということだろう。
「お待たせしました。準備が整いました」
「それじゃ向かうとしよう」
数分もしない内に戻ってきたテイトにそう声を掛け、廃屋から心配そうに顔を出して俺を見ている妹のケイトに手を振ってから、トレバーのいる門へと向かう。
さて、この門までの道中で色々と質問するとしようか。
「テイト、この三週間は大丈夫だったのか?」
「はい、私の方は特に問題なかったです。妹が廃材集めを手伝ってくれたお陰で、ジェイドさんから教えて頂いたトレーニングもしっかりこなすことができました」
「まだ幼いのにしっかりしている妹さんだな」
「本当に助けられています。こんな私を指導してくれているジェイドさんや支えてくれる妹のためにも、少しでも強くなって早く冒険者として稼げるようにしたいですね」
そう答えたテイトの瞳には熱と光が帯びており、初めて地下室で会った時とはまるで別人のような力強さがある。
「ああ。早く強くなってくれたら、俺としても助かる。これから紹介するトレバーと一緒に頑張ってくれ」
「はい! 死ぬ気で頑張ります!」
「それで……『都影』の動きについては何か掴んでいないか?」
近況についてを尋ねた後、俺が『都影』についてを聞いたところ口ごもった様子を見せた。
これは……何か動きがあったようだな。
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