第13話 武器屋巡り
窃盗犯を担いだまま商人ギルド前の詰所まで運び、兵士に窃盗犯を引き渡してきた。
偶然、前回の窃盗犯騒動の時の対応をしていた兵士がいたため、特に怪しまれることなくスムーズに引き渡すことに成功。
この男に盗まれた鞄も兵士が届けてくれるみたいだし、気を取り直して街ぶらの続きを行いたいのだが……窃盗を行っている組織についてが非常に気になる。
今回と前回の窃盗犯が同じ組織に所属していたかは定かではないが、同じ組織だったのだとしたら今回の窃盗の狙いは物を盗むことではなく、前回の窃盗犯を捕まえた人物を探し出す――つまりは俺を見つけ出す動きを取っているのだと思う。
今回の一件で更に俺を見つけようとする動きを強めてきたら、正義の味方面するのはしばらくの間控えた方がいいかもしれないな。
……まぁ、もう手遅れな気がしないでもないが。
今後についてを色々考えながら大通りへと再び戻ってきた俺は、先ほど入るのを止めた武器屋へ向かうことに決めた。
さっきまで騒めき立っていたのも既に落ち着きを取り戻しており、俺も素知らぬフリをして武器屋へと入る。
パッと見の印象は、どこにでもありそうなごく普通の武器屋。
大通りの中心部に近い場所に店を構えているという理由からか、値段が少々割高な気がするな。
盗難防止の魔結界が施されたショーケースの中には、そこそこの武器もちらほらと見えるが値段に関してはぼったくりとも思える価格。
レア鉱石で作られた武器に、永続魔法を込められた魔法武器。
一番目を引いたのは世界樹で作られた弓だが……白金貨百枚という馬鹿げた値段だ。
偽物ではないことぐらいしか良いと思える点がないし、店前に置かれた安い武器はどれも今現在持っている短剣と同レベルのガラクタ。
全財産が銀貨二枚と銅貨三枚の俺にとっては無縁の店だな。
窃盗犯騒動で雲行きが怪しくなってきたし、武器はすぐにでも欲しいところだが銀貨二枚で買える武器なんてたかが知れている。
それでも武器を求めて、俺は立ち寄った武器屋を後にした。
その後複数軒の武器屋を見て回ったが、大通りにある武器屋はどれも似たようなもので目ぼしい武器を見つけることはできなかった。
武器屋以外もこれといった店がなく――というよりも、手持ちの金銭的に利用できる店がない。
こうやって他の店を見て回ったが、『シャ・ノワール』は大通りに店を構えているのにも関わらず、かなりリーズナブルな価格設定になっていることが分かる。
もちろん大通りの端っこというのもあるが、今後商品の安さも押していけば客も増えそうな感じがするな。
『シャ・ノワール』の思わぬ長所を見つけたものの、せっかくの休日を使っての店巡りは不発に終わった。
露店市で良い防具を安値で買えた訳だし、まぁ悪くない一日ではあったはずだ。
もう辺りはすっかりとオレンジ色に染まり、あと二時間もしない内に真っ暗になるだろう。
次の休暇は別のエリアを巡るとして……今日はもう露店市で食料を買ってから帰るとするか。
またしても窃盗騒動に巻き込まれたが、大通りの店巡りは当初の予定通り行えたし良い一日だった。
大通りを逸れて、露店市のある西の方角に歩き始めたその時。
突如、背後から聞き覚えのある声で呼び止められた。
「あっ、ジェイドさんじゃないですか!」
振り返ると、やはり見覚えのある顔がそこにあった。
窃盗犯として捕まりかけていた俺を助けてくれ、『シャ・ノワール』への就職も推薦してくれた感謝してもしきれないほどの恩人。――スタナだ。
「こんなところで会うなんて偶然だな。えーっと……」
スタナの方から声を掛けてきてくれたはいいものの、何を話したらいいのか分からない。
言葉に詰まり、挨拶をしてから立ち尽くしていると、スタナの方から話を振ってくれた。
「私は仕事終わりでたまたま通りかかったんですけど、ジェイドさんはここで何をしていたんですか?」
「レスリーから休日を貰ったから、一日かけて色々と店を回っていたんだ」
「へー! レスリーさんのところでしっかりと働けているんですね」
「ああ、スタナのお陰で働けている。俺をレスリーに紹介してくれて本当に助かった」
「善意で人助けをする方ですし、私が勝手にジェイドさんを良い人と判断して勧めただけですので気にしないでください。それに……実際に雇ったのはレスリーさんですからね」
やはりスタナは良い人だな。
この街で偶然知り合えたのは本当に幸運だった。
「そういえば街のことについて困ってはいませんか? 何かお目当てのお店があったけど見つけられなかった――とかあれば私が案内しますよ」
「それは本当か? 実は武器屋を探していたのだが、良い武器屋が見つからなかった。安くて質がそこそこの武器屋を知っていたら、いつでもいいから教えてほしいんだが……」
「武器屋ですか? ……あっ、一軒だけ良い武器屋を知っていますよ。ジェイドさんにお時間があるなら、今から案内しますがどうでしょうか?」
流石に時間も時間だし、今から案内すると言ってくるとは思っていなかった。
俺はもちろん時間はあるが、この時間帯から付き合わせるのは少し申し訳ない気持ちになる。
店の場所だけ教えてもらって、一人で向かうことを伝えようか。
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