第14話 ドワーフの店
「俺は時間があるが……流石に案内してもらうのは申し訳ないから、店の場所を教えてくれれば一人で行くぞ」
「ジェイドさんとは色々と話したいですし、私はもう仕事が片付いていますので直接案内したいんです。……ジェイドさんが迷惑と言うのであれば、もちろん場所だけ教えますけど」
「いや。直接案内してくれるのであれば、こちらとしては本当にありがたい限りだ」
「それなら良かったです! では、行きましょうか」
何故か分からないが、成り行きでスタナが武器屋を紹介してくれることになった。
良い武器屋を知っているみたいだし、俺としてはありがたい限りだが……スタナは困っている人をみたら放っておけない質のようだな。
白衣を纏ったスタナと横並びで色々と話しながら、俺は街の東にある小さな武器屋へと案内された。
街の東は先ほど捕まえた窃盗犯を届けた詰所がある方角で、詰所近くの商人ギルドだけでなく、冒険者ギルドや職人ギルド、治療師ギルドといった様々なギルドが隣接するギルド通り。
案内されて辿り着いた店は、そんなギルド通りを越えた街の端っこにある小さな店だった。
先ほどまで大通りにある無駄に外観だけは良い店を回っていただけに、外から見る分だとお世辞にも良い店には見えない。
石造りの家だが黒ずんでいる上に所々欠けているし、屋根との境目には蜘蛛の巣が張られているのも見える。
「このお店です。見た目は少しアレなんですが、質の高さと値段の安さは私が保証します」
「スタナがそこまで言うのであれば心配ないな。案内してくれてありがとう」
俺一人では入ろうとも思わない怪しさ満点の店だが、スタナの紹介とあれば信用できる。
躊躇なく店の扉を押し開けたスタナの後をついていき、俺は怪しげな武器屋の中へと入った。
店の中はやけに温度が高く、居るだけで汗が吹き出てきそうなほどの蒸し暑さ。
外観同様に店内も小汚いが武器屋との紹介に間違いはなく、乱雑に置かれていながらも武器が売られていた。
「こんにちは! ダンさん、いますか?」
「んおっ? もう店じまいの時間——って、スタナ先生じゃねぇか! 急に来てどうしたんだい!」
スタナの呼びかけに反応し、店の奥から出てきたのは非常に背は低いものの髭だけは立派なおっさん。
過去に依頼を受けて一人だけ殺したことがあるが、確かドワーフと呼ばれる亜人種だったはずだ。
「私の知り合いが武器を探していまして、良い店を紹介してほしいと言われたので連れてきたんです。ダンさんのところなら、武器も安く売ってくれますよね?」
「スタナ先生の知り合いならば安くするけどよぉ……チッ、男でしかも年齢も結構いってるじゃねぇか」
俺の顔を見て、かなり不満気にそう呟いたダンと呼ばれたドワーフの店主。
態度は気に食わないものがあるが、置かれている武器の質は悪くない。
この室温から気になってはいたが、どうやらここの武器屋は鍛治も行っているみたいで、剣の大半はこのドワーフのダンが自ら制作している様子。
ドワーフは手先が器用な種族として有名だし、この剣の質の高さも納得だな。
あとは肝心の値段の方だが……スタナの知り合いだから安くすると言ってくれたがどうだろうか。
「ダンさん。何か良い武器を見繕ってあげてください。なるべく手頃な武器がいいみたいなので」
「スタナ先生のなら俺が見繕うが、悪いがおっさんの武器を見繕う気はない! そことそこの籠に入っている剣は、一律銀貨二枚で売ってやるから自分で目利きして決めてくれ!」
ダンが指定した籠に入っているのは全て鉄製の武器だが、質は申し分ないし銀貨二枚は相当安い。
もらった給料がほぼゼロになってしまうが、銀貨二枚で買えるのであれば許容範囲内。
飯なら最悪、街の外に出て動物でも狩ってくればいいだけだしな。
「ジェイドさん、申し訳ございません。そういうことらしいですので、自分で探してもらっても大丈夫ですか? 私は剣に関してからっきしでして……」
「剣の良し悪しは分かるから大丈夫だ」
「このお店はルーキー冒険者の支援目的で営業していまして、ギリギリのところで経営していることからも分かる通り、ダンさんは決して悪い人ではないんです。少しだけ気難しい性格なだけで……」
「フォローしなくても分かっている。値段と剣の質を見れば利益を気にせず営業していることはな」
スタナは俺に強く当たったダンの必死にフォローをしているが、フォローなんてしなくても悪い人ではない――むしろ良い人だというのは分かる。
ただ俺に選ばせた訳だし、こっちとしてもルーキー冒険者以上に金には困っている。
悪いけど、この中で一番質が高い剣を選ばせてもらうとするか。
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