第15話 目利き
籠に入った剣をザッと見て、良いと感じた剣を手に取っては籠に戻す行為を繰り返し行う。
二つの籠に入っていた中で良いと感じた計十本の剣を吟味し、その中で特に良いと感じたのは右側の籠に入っていた片手剣だった。
素材は鉄製なのだが他の武器とは鍛えられ方が別格で、下手な鋼の剣なんかよりも質の高い鉄剣だ。
――ただ、俺が今一番欲しいと思っているのは短剣。
持ち運ぶのに便利だし、懐に入れられるため無手を演出できて油断を誘える。
戦闘職ではなく道具屋で働いている訳だし、片手剣ではなく短剣でも十分すぎるからな。
俺は一番良いと感じた鉄製の片手剣を籠へと戻し、籠に入った短剣の中で一番質の高い短剣を手に取った。
……うん。片手剣と比べると幾分か見劣りするが、十分すぎる質の高さ。
値段もお手頃だし、この短剣を買わせてもらうとするか。
「決めた。この短剣を買わせてもらいたいんだがいいか?」
「――おい、一つ聞かせてくれ! なんでそっちの片手剣を戻したんだ? その短剣の方が良く見えたのか?」
「いや、俺が単純に短剣の方が欲しかっただけだ。質の高さで言うならば、その片手剣の方が数段上だろう」
「…………へへへ、あーはっはっは!! 冴えないおっさんだと舐めていたが、相当に見る目のあるおっさんじゃねぇか! 流石はスタナ先生が連れてきた人なだけはあるぜ!」
どうやら正解の選択ができたようで、ダンは手を叩きながら嬉しそうに大笑いしている。
俺も良い短剣を安く買えたし、ダンも嬉しそうだし互いに良い結果だったかもしれないな。
「それでは、この短剣を銀貨二枚で頂くぞ」
「いや! 気に入ったし銀貨一枚に負けてやる! その代わり俺の店を贔屓にしてくれや! 今度はしっかりと歓迎させてもらう!」
「本当にいいのか? 俺も金には困っているし遠慮する気はないぞ」
「構わねぇ! ただし、金が手に入ったら別の武器も買ってくれや!」
「ああ、分かった。知り合いがいたら紹介もしておく。……スタナもこの店を紹介してくれて助かった」
「いえいえ。ダンさんも見ての通り嬉しそうですし、ジェイドさんを紹介して良かったです」
こうして短剣を購入した俺は、おまけとして鞘を頂いてからダンの店を後にした。
刃こぼれしている錆びた短剣の代わりに買った短剣を懐にしまい、これでいつ襲われても大抵の相手なら対処できるだろう。
今日の朝は全く考えていなかったが、意図せずともフル装備が整ってしまったな。
革の防具に鉄の短剣と、装備の質でいえば駆け出しのルーキー冒険者って感じだが、一道具屋の店員にしては過剰な装備といえる。
「ジェイドさん、随分と嬉しそうですね。そんなに良い剣を買えたんですか?」
「まぁそうだな。この短剣のお陰で、自分の身は守れるようになったと思う」
「街に来て初日で事件に巻き込まれたんですもんね。短剣といえど武器を購入したのは良い判断だと私も思います」
「全部、スタナのお陰だ。また助けられてしまったな」
「私が勝手に紹介しているだけなので気にしないでください。それよりも、ダンさんがあそこまで機嫌良さそうにしているの初めて見ましたよ。ジェイドさんは武器に詳しいんですか? 以前、そういった関連の仕事をしていたとか……?」
「いや、剣を見るのが趣味だっただけだ。それより色々と世話になったし、今度ご飯ぐらいは奢らせてほしいんだが、時間が空いている日はあるか?」
過去の話はまずいため、話を変えるためということも含めて俺がそんな提案をすると、目を開いて驚いた表情を見せたスタナ。
……流石にいきなり飯を誘ったのは駄目だったか?
そう思ってしまうぐらいの間があった後、スタナは首をぶんぶんと横に振った。
「いやいや、奢るなんて大丈夫ですよ。まだ働き始めて日も浅いと思いますし、お金がないと仰ってましたし手持ちがないんですよね? 私が奢りますので、今日の夜ご飯に付き合ってください」
「いやいや、それは話が変わってくる。お礼なのに奢ってもらったら本末転倒もいいところだからな」
「大丈夫ですよ。こう見えてお金は結構稼いでいますので! ご飯に付き合ってもらえれば十分です!」
よくよく考えれば、スタナは治療師なんだもんな。
俺なんかの数倍、数十倍も稼いでいてもおかしくない。
正直おかしいという気持ちが強すぎるが、懐的には本当にありがたい。
人としてのプライドか、懐を気にしてスタナの言葉に甘えるのか。
俺は悩みに悩んだ挙句……結局俺は奢ってもらうことにしてしまった。
いつか金に余裕ができたら奢ると約束はしたものの複雑な心境の中、何故かやけに機嫌が良さそうなスタナと共に、俺は夜ご飯を食べに大通りへと向かったのだった。
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