閑話 追えない足取り


 部屋は強烈な血の臭いが充満していて、石壁と同化するようについたドス黒い血の上に新たな大量の血が飛び散っている。

 俺の目の前には三人の死体が転がっており、だらしない顔で横たわっている死に顔を見るだけで沸々と怒りが再燃してくるな。


 激しい貧乏揺すりも止まらず、頭の中を駆け巡るのは姿も顔すらも分からない俺をコケにした人物。

 きっかけは大したものではなかった。


 馬鹿が値のつく宝石の盗みに失敗し、報復としてその盗みの邪魔をした正義面野郎も気晴らしに殺そうと考えていただけ。

 そんな目立つ行動を取った人物なんてすぐに見つかると高を括っての行動だったのだが、予想よりも遥かに情報が集まらず正義面野郎の捜査は難航。


 無駄に反して時間だけを取られていくことへの怒りが募り、俺は荒療治で窃盗犯を見つけることに決めた。

 やり方は単純明快で片っ端から窃盗を行い、助けようとしてきた奴らを捕まえるだけ。


 また目の前で窃盗が行われたら、正義面野郎は絶対にまた助けに動くはず――。

 そんな俺の予想は正しく、まさかの一発目の窃盗で正義面野郎が引っかかったのだが……一切の情報も掴むことができなかった。


 こちらの動きが悟られないよう、細心の注意を図って複数人での二重尾行を行ったがこれらを全て回避。

 正義面野郎の情報が得られなかっただけでなく、しっかりと窃盗を犯した奴だけを捕まえられて兵士へと突き出された。


 そして捕まった馬鹿は俺に殺されるのを恐れ、全ての事情を兵士に話しやがったのだ。

 『蒼の雫』を盗み損ねて兵士に捕まった奴を殺したのも裏目に出たし、そもそもこの厳重な体勢の中でこちらが捕まることなど一切考えていなかった。


「くそっ! クソがっ!」


 怒りをぶつけるが如く、肉塊と化した死体に剣を突き立てていく。

 どれだけ死体を傷つけても怒りが収まることはなく、やはりこの手で正義面野郎をぶち殺すしか俺の溜飲は下がらない。


 そもそも使えない馬鹿に任せた俺の判断が間違っていた。

 組織としてはしばらく大人しくするしかないが、今度は俺のみで動いて正義面野郎をこの手で摑まえる。


 色々とごちゃごちゃやっていたが……窃盗をすれば捕まえに現れるということは、俺が窃盗の実行犯を行えば俺の前に現れるということ。

 正義面野郎が俺の前に姿を表したが最後。


 簡単には殺さずに死にたいと願うほど拷問をし――正義面したことを後悔させてやる。

 そうと決まれば、色々と準備を行うとするか。

 普段なら直接動くなんて面倒くさいと思う俺だが、今回ばかりはワクワクした気持ちで準備に取り掛かれそうだ。


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