第132話 試行


「遠い。わざわざ西の森まで来る必要あった?」

「毒の加減が分からないからな。安全を期して西の森で試すのがベスト。それに西の森なら魔物相手にも試すことができる」

「……確かに。魔物相手にはまだ試してなかった」


 日が落ちかけているため、俺達はすぐに西の森まで移動して毒煙玉を試すことにした。

 まずは俺が毒煙玉を吸って、毒の強さの確認を行うつもりでいる。


「ヴェラ、毒煙玉を貸してくれ」

「これが私が作ったやつ。分かっていると思うけど、使うときは気をつけて」


 風の向きを確かめてから、受け取った毒煙玉を放り投げる。

 風に乗って噴出された毒煙が俺のところまで流れてきたため、思い切り吸い込んで毒の具合をこの身を使って確かめていく。


 発声した煙を吸ってすぐに症状が体に現れる――軽い痺れに筋力の脱力か。

 致死性ではなく、無力化させることに重きを向いた毒。


 毒の強さも丁度よく、難度Cくらいの魔物相手にならば有効的に使うことができそうだ。

 最初の頃のと比べると、改良に改良を重ねたのが毒を吸い込んですぐに分かった。


「完璧だ。毒の具合は申し分ないと思う。これなら間違って吸っても死ぬ可能性はないだろう」

「ただ吸っただけでそんなことまで分かるの? ジェイドが何者なのか本当に気になる。毒も効いてないみたいだし」


 ヴェラが感じた疑問には一切触れず、俺は西の森の中に入り索敵を始めた。

 大抵の魔物に有効なことは分かったが、魔物相手にどこまで効果が現れるかまでは実際に使ってみないと分からない。


 索敵を始めてから、僅か数十秒で魔物を感知した。

 この魔物の気配は――ゴブリンだろう。


 ゴブリンキング騒動の時に西の森のゴブリンは殲滅したはずなのだが、もうゴブリンが生息していることに繁殖力の高さに驚く。

 それにしても……ゴブリンか。


 ゴブリンだと相手として少し物足らないが、こればかりは仕方がない。

 この世界で一番遭遇する魔物といっても過言ではないし、試す価値はあるはずだ。


「ヴェラ、右手側にゴブリンが見えた。魔物相手に試してみよう」

「ゴブリン? 試す必要なさそうだけど分かった」


 ヴェラは毒煙玉を手に取り、俺が指示した場所に投げた。

 すぐに煙が立ち昇り、毒を含んだ煙が森を覆う。

 煙が落ち着くのを待ってから、ゴブリンの気配がした場所へ向かってみる。

 

「あっ、倒れてる。生きてはいるみたい」

「ちゃんと毒が効いているな。即効性のある毒ってことも確認できたし、これなら製品として売り出しても大丈夫だろう」


 仰向けで倒れ、体をピクピクと痙攣させたまま動けない様子のゴブリンを見て、実用性があると判断できた。

 人が吸っても死ぬ恐れが限りなく低いことも検証できたし、売りに出せるレベルだと思う。


「ふぅー、良かった。頑張って作った甲斐があった」

「毒煙玉については紛れもなくヴェラ一人で作ったものだからな。よくここまで仕上げたと思う」

「負い目もあったから頑張った。明日レスリーに話す」

「俺の方からも軽く伝えておく。今日はもう帰って休んだ方がいい。最近は業務終わりに毒煙玉を作っていたんだろ?」

「うん。今日は久しぶりにゆっくりと眠ることができそう」


 毒煙玉が成功したことで胸のつっかえが取れたのか、安堵した表情を見せた。

 一人でやり遂げたこともそうだが、ヴェラにとっては非常に良い経験を積めたと思う。


「ああ、ゆっくり休んだ方がいい。俺はもう少し森に残って、毒煙玉を試してから帰るから先に戻ってくれ」

「一人で残って大丈——ジェイドなら大丈夫か。なら、私は先に帰る」

「気をつけて帰れよ」

「こっちの台詞。気をつけて作業して」


 毒煙玉を三つ受け取ってから先にヴェラを帰らせ、俺はもう少しだけ効果を調べることにした。

 ゴブリンで売りに出せるレベルというのは分かったが、どこまでの魔物に使えるのかは知っておきたい。


 例えば、フレイムセンチピードのような虫型の魔物とかにも効くのかどうかも単純に気になるからな。

 ここまではわざわざ調べる必要はないのだが、単純な好奇心から調べることにした。


 近くに魔物の気配がないため、少し森の奥に向かうとしよう。

 トレバーとテイトの相手を探さなくてはいけないということもあり、西の森のある程度の魔物の分布図は事前に把握している。


 こんな場面で必要になるとは思っていなかったが、お陰で探す手間なく試したい魔物巡りができる。

 夜は活発に動き出す魔物が多いため、軽く警戒だけは行いつつ、毒煙玉試しを行うとしようか。


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