第120話 魔物のペット

 

 俺が腰を下ろしてウィッチボアを見ていると、ペットエリアから来たスタナが後ろから声をかけてきた


「ジェイドさんはウィッチボアが気に入ったのですか?」

「気に入ったというか能力が気になってみていた。スタナは飼いたいペットは見つかったのか?」

「いえ、どの子でも飼いたいぐらいなのですが、やはり家を留守にしている時間が長いので飼えそうにないんです」


 残念そうな表情を見せ、あからさまにしょぼくれているスタナ。

 やはりペットを飼うとなったら、世話する時間がないと駄目なのか。


「世話のいらないペットとかはいないのか?」

「ペットと言えるのか分かりませんが、植物くらいですね……。気晴らしに野菜を育てたことがあったのですが、育った野菜を食べて複雑な心境になってしまってやめました」

「植物は確かにペットとは少し違うかもな。少し仕事が落ち着くまでは厳しそうだな」

「ですね……。ジェイドさんは飼わないのですか? 飼えるのであれば、一緒に可愛がりたいんですけど!」

「俺も無理だな。スタナほどではないがかなり忙しいし、そもそも宿屋暮らしだ」


 ペットを育てる余裕は今の俺にない。

 一ヶ月に一度だけのテイトとトレバーの指導ですら、結構ギリギリな状態だからな。


「それは残念です。ジェイドさんと一緒になら育てられる気がしたのですが、やはりペットは厳しそうですね」

「そうだな。今はペットは厳しい」

「飼いたいという欲求が高まっただけで終わってしまいましたね。次のお店に行きましょうか」


 個人的にもウィッチボアは気になったが、飼える環境ではないため諦めることとなった。

 今のところプレゼントを買えるようなお店がないが、俺一人では絶対に来ない店だっただけに店を巡るだけでも非常に楽しい。


 続いてやってきたのは、アクセサリーショップ。

 アクセサリーといってもただのアクセサリーではなく、特殊効果のあるアクセサリーを取り扱っている店らしい。


「こんな店があったんだな。店舗自体も小さいし、気にも止めたことがなかった」

「治療師の間では意外と流行っているんですよ! 冒険者の方も身に着けている方がたくさんいますしね」


 どんなアクセサリーがあるのか気になり、一つ一つ見ていったのだが飛びぬけて凄い効果のあるアクセサリーは売られていない。

 食欲増進させる指輪やよく眠れるようになるネックレスなど、効果が実感できるのか怪しいものばかり。


「これ本当に効果があるのか?」

「あるって聞きますよ! なんでもダンジョンで見つかるマジックアイテムらしいですから。……まぁ、ダンジョン街では買われない微妙な効果のものが流れてくるみたいですけどね」


 効果は微妙でも、ちゃんとした物ではあるのか。

 お洒落をする目的のものではないため、見た目も古臭くて身に着けにくいものばかり。


 そんな微妙なアクセサリーが並ぶ中、一つだけ俺の目に止まったアクセサリーがあった。

 効果は魔力の循環が良くなるというもので、金リングの非常にシンプル故にデザインが気にならないもの。


「ジェイドさん、何のアクセサリーを見ているんですか?」

「魔力の循環が良くなるイヤリングらしい。治療師なら回復魔法を使うんだろう? これなんか良いんじゃないかと思った」

「はい。回復魔法をかけるのが仕事ですから! ……確かにいいですね。デザインも他と比べて可愛い気がします!」


 値段は金貨三枚と高価ではあるが、ギリギリ購入可能な値段。

 スタナには散々世話になっているし、金貨三枚のものでも余裕で支払える。


「なら、俺からのプレゼントはこのイヤリングでどうだろうか?」

「いいんですか!? このイヤリング結構な値段がしますけど……」

「大丈夫だ。スタナには世話になっているからな。俺からプレゼントさせてもらう」

「ジェイドさん、ありがとうございます! 大事に使わせて頂きますね!」


 結局俺の意見でプレゼントを選んでしまったが、スタナの満面の笑みを見れたし様々な店を巡っただけはあった。

 このイヤリングで少しは仕事の負担が減ってくれればいいのだが、効果については使ってみないと分からないからな。


 ちゃんとしたマジックアイテムであることを願いつつ、俺は店員に金貨三枚支払って魔力の循環を良くするイヤリングを購入。

 そして、そのままスタナにプレゼントした。


「本当にありがとうございます! 今まで貰ったプレゼントの中で一番嬉しいかもしれません!」

「お世辞は別に言わなくても大丈夫だぞ。それじゃ飯を食べて帰るとしようか」

「お世辞じゃないですよ! 本当に飛び上がるくらい嬉しいんですから!」


 白衣を着たままぴょんぴょんと飛び跳ねるスタナを見て、俺は軽い笑みを浮かべつつ、『パステルサミラ』へと向かうことにした。

 何はともあれ、スタナが喜んでくれて良かった。


 久しぶりに体もゆっくりと休めることができたし、俺としても非常に休日を送ることができた。

 これから向かう『パステルサミラ』の料理も非常に楽しみだな。


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