第119話 店巡り
まず向かったのは、大通りにある服屋。
スタナは今着ている白衣の印象が強いが、私服はかなりお洒落だったもんな。
「まずは服を見てもいいですか?」
「もちろん構わない。今日はスタナが好きな店に行ってくれ」
「ありがとうございます! ここは男性用の服も売っていますので、ジェイドさんの服も見繕ってみてはいかがですか?」
「……考えておく」
スタナにそう勧められたものの、こう言った服屋で買うとなると高くつく。
俺なんかが新品の服を買っても何も変わらないだろうし、露店市で売られている古着で十分なんだよな。
何にせよ今月はプレゼントを買ったせいで金欠気味でもあるし、自分の分のものまでは買う余裕はない。
来週の給料日は期待できるため、散財するとしたら来週以降だな。
「あっ、ほら! 見てください! この服とかジェイドさんに似合いますよ!」
「俺には似合わないだろ。流石にお洒落すぎる」
「そんなことないですよ! ……すいません。試着しても大丈夫ですか?」
店に入るなり興奮気味のスタナは店員に試着の有無を尋ねると、試着室に俺を押し入れてきた。
この流れはまずいのだが、笑顔で勧めてくるスタナの言葉を拒否することができない。
「試着しても大丈夫らしいので着てみてください! きっと似合うと思います!」
「……分かった。俺のではなく、スタナの服を見に来たんだけどな」
ぼそりと独り言を呟きながら、俺はスタナに言われるがまま試着を行う。
そこから何故か、スタナは次々と俺に似合うであろう服を見繕っては俺に着させ、着せ替え人形状態となっていた。
次から次へとやってくる服に着替えてはスタナに見せ、新しい服に着替える度にスタナは良いリアクションを見せてくれる。
そして、とうとう似合う組み合わせが見つかったのか、スタナは満足気に笑顔で何度も頷きながら小さく手を叩いた。
「おおー! この組み合わせがベストです! ジェイドさん、買ってみてはいかがですか?」
「いや……まぁ……。そうだな。せっかくだし買わせてもらう」
「本当に似合ってますので良かったです! いつも以上に恰好良いですよ!」
約三十分に渡って俺の服を選んでもらったため、断るに断れずスタナの選んだ服を購入することになってしまった。
来週までは散財しないと店に入る前に決めたばかりなのだが、早速その決め事を破るハメになったな。
高い服を買ってしまったという暗い気持ちと、スタナに褒められるのが悪くないという嬉しいという複雑な心境。
「今回買った服を、『シャ・ノワール』でも着てみたら女性のお客さんも増えるんじゃないですか?」
「いや、流石に配達とかもあるから動きやすい服を着る。仕事で着るにはもったいない気もするしな」
「そうですか……。残念なようなホッとするような複雑な心境です! それじゃ次のお店に行きましょうか!」
「えっ、スタナの服は見ないのか?」
「ジェイドさんの服を選んで満足しましたので! それじゃ行きましょう!」
よく分からないが、満足しているならいいのか……?
とりあえずこの店で俺が購入したのは、ジージャンに白のTシャツ、そして黒のスキニーパンツという全体的にスタイリッシュなお洒落な服。
普段ダボッとした服を着ていることもあり、鏡で見る限りは自分ではないぐらいの変化があった。
服装だけでこれだけ変わるということに驚きつつも、俺は服屋を後にしてスタナの後をついていった。
次にやってきたのはペットショップ。
犬やら猫といった動物に加えて、小型で大人しい魔物なんかも売られている。
生き物を飼うということに興味がなく、俺は今日初めてペットショップという場所に足を踏み入れた。
「次はペットショップか。スタナはペットが欲しいのか?」
「ずっと一人で寂しいので欲しいんです! でも、仕事が忙しいので飼えずじまいって状態ですね」
飼育ケースに入れられた動物を見つめながら、うっとりした表情を浮かべているスタナ。
この表情を見ても、本気で動物が好きなことが分かる。
俺は動物よりも魔物の方が気になるため、店内で別れて小型の魔物エリアを見に行く。
巨大な尻尾を持つリスのような魔物のテールアルディージャ。
魔法を使えるという小さな豚のような魔物のウィッチボア。
全身針だらけのモグラのような魔物のニードルトーポ。
どれもペットとして売られているため、かなり可愛い見た目をしている。
三種の中で俺が一番気になるのは、やはり魔法が使えるというウィッチボア。
初級魔法しか使えないようだがちゃんと躾けることができれば、火起こしや少量の真水を出すことができるようにもなるらしい。
どこで必要になるのか分からないが、柄模様の見た目も相まって可愛く見えてきた。
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