第118話 買い物
翌日。
前回の休日は北の山に赴き、フィンブルドラゴンを討伐したため、休日という感じが一切ない。
疲労も限界を迎えていたし、眠気も押し殺した状態で次の日の仕事にも望んだからな。
そんなこともあって、俺としては久しぶりの休日といった感覚。
現在の時刻は昼前。
いつものように早起きはせず、ゆっくりと寝た俺はシャワーを浴びてから出かける準備を整える。
今日は昼過ぎからスタナと約束をしており、前々から予定していたプレゼントを買う予定。
フィンブルドラゴン戦で壊してしまった鉄の短剣の代わりや、フィンブルドラゴンの素材の加工も行いたいところであるが……流石に今日はスタナへのプレゼントが最優先。
中々予定が合わなかったというのもあるが、プレゼントを買うと決めてから大分日にちが経ってしまっているからな。
最低限の身だしなみを整えてから、俺は待ち合わせ場所である大通りの詰所へと向かった。
予定の時間よりも早めに着くように宿屋を出たつもりだったが、既に詰所の前には既にスタナの姿があった。
今日は早上がりで仕事が終わってからそのまま来ると言っていたため、私服ではなく見慣れた白衣姿。
「すまん。待たせてしまったか?」
「あっ、ジェイドさん! いえ、今来たばかりですので気にしなくて大丈夫ですよ」
声をかけるなり、満面の笑みで対応してくれたスタナ。
その笑顔に反応してか、周囲の人の視線がスタナに向いたのが分かり、なんかよく分からないが申し訳ない気持ちになってくる。
今更だが俺とスタナでは住む世界が違いすぎる。
なんで付き合ってくれているのか分からないが、俺にとっては数少ない友人の一人であるため大事にしないといけないな。
「……どうしたんですか? 浮かない顔をしていますけど、疲れているんでしょうか?」
「いや、気にしないで大丈夫だ。それより、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ! こちらこそお誘い頂きありがとうございます! 今日はご飯だけじゃないんですよね?」
「ああ。世話になっているスタナに何かをプレゼントしたくて、欲しい物を一緒に買いに行こうと考えていた」
「私にプレゼントですか!? 本当に嬉しいですけど、私はジェイドさんに何もしていませんよ?」
「いや、そんなことはない。ヨークウィッチに来てから世話になりっぱなしだ」
レスリーと張るくらい世話になっているし、何ならレスリー以上に恩を感じている。
強盗騒ぎの時に助けてくれなければ、俺はこの街から去らなければいけなかったし、去っていれば今の充実した日々を送れている俺はいない。
『シャ・ノワール』で働けたのもスタナのお陰だし、本当にスタナ様々だ。
俺の知っている店のほとんどはスタナから教わっているし、俺にとっては恩人でしかない。
「そういうことでしたら、お互いにプレゼントを買うってのはどうですか? 私もジェイドさんにはお世話になっていますので!」
優しい笑みを浮かべ、そんな提案をしてきたスタナ。
食事を奢った時もそうだが、絶対にお返しの提案をしてくる。
「それじゃ俺の恩を返せない。今回は俺からプレゼントを贈らせてくれ」
「いやぁ、本当に恩とかそんなつもりはないんですが……そういうことでしたら、“今回”はジェイドさんの私へのプレゼント選びに付き合います! 次は私のジェイドさんへのプレゼント選びに付き合ってください!」
一切進展しておらず、それじゃ全く意味がないのだが……この場は呑むしかない。
人差し指を立て、小首を傾げながらしてきたスタナの提案に了承した。
「分かった。次はスタナの買い物に俺が付き合う」
「よしっ、これで決まりですね! それでは今日はとことん買い物に付き合ってもらいますよ。本当に欲しい物を探しますので付き合ってくださいね?」
「もちろんだ。スタナが本当に欲しいものじゃなきゃ意味がないからな」
「ありがとうございます! 久しぶりのお買い物ですので、本当に楽しみです」
こうして挨拶がてらの話し合いも終わり、スタナとの買い物が始まった。
一体どんなものを欲しがるのか見当もつかないため、俺としても非常に楽しみな買い物だ。
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