第186話 帰還


 ベニカル鉱山を出てからは特に何もなく、無事に昼過ぎ頃にはヨークウィッチへと戻ってくることができた。

 常にテンションが高かったこともあってか、流石のエイルもお疲れの様子だったため即解散。


 持ち帰ってきたものの分配は明日行う約束だけして、ヨークウィッチに帰ってきて数分で別れた。

 俺はまだ体力に少し余裕があり、『シャ・ノワール』の様子も見に行きたい気持ちがあったが……明日から普通に出勤しなくてはならない。


 また休日に疲れを溜めたせいでレスリーに心配されないためにも、今日はこのまま宿屋に帰って休むとしよう。

 汗も生きてきて一番かいたと言っても過言ではないし、シャワーにも早く浴びたいからな。

 後ろ髪を引かれる気持ちになりながらも、俺はそのまま宿屋へと戻った。



 宿屋に戻ってからは昼食を済まし、ゆっくりと休んだ翌日の早朝。

 長時間寝たお陰で疲れは全て吹き飛び、体は万全の状態。


 まずは冒険者ギルドに顔を出し、エイルがいれば持ち帰った荷物の分配。

 いなかったら『シャ・ノワール』に向かい、この三日間の報告を聞かせてもらおう。

 そんな大まかな予定を立てた俺は、準備を整えて宿屋を後にした。


 まだ日も昇っていない早朝ということもあり、冒険者ギルドからは人の気配がほとんどしないが……中からエイルの気配があるのを感じ取った。

 一応来てみただけで絶対にいないと思っていたため、エイルがもういることにかなり驚いている。


 この時間帯なら正面から入ってもいいのだが、いつもと変わらず窓から侵入。

 ギルド職員がいない冒険者ギルドの中を進み、ギルド長室へとやってきた。


「エイル、入るぞ」


 一応声を掛けてから中に入ってみると、エイルは机に突っ伏して眠っていた。

 服装から考えるに一度宿屋に戻って着替えているから、早めに来てみたものの眠くなって寝たって感じだろうか。


 当たり前だが寝ている時はエイルと言えど静か。

 起こすと鬱陶しいため、あまり起こしたくはないのだが……起こさないと何もできない。


「エイル、起きろ。おい、起きろ!」

「……ん? んあ? ……ジェイドか! こんな時間から来たのか!?」

「一応来てみたらいたから入った。エイルも随分と早い出勤なんだな」

「あの後すぐに寝たから早く起きちまったんだ! んで、マイケルに怒られるのを避けるために早めに来て仕事をしようと思ったんだが、やっぱりめんどくなって寝た!」


 行動が意味不明すぎて少し怖い。

 本当にエイルの尻ぬぐいをしているマイケルは凄いと思う。


「そうか……。それよりも早速だが、持ち帰って来たものの分配をしよう」 


 あれこれ考えるのも嫌になったため、話をぶった切って本題に入る。

 さっさと分配を行って『シャ・ノワール』に行きたいしな。


「そこのリュックに入れっぱなしだ! 床にぶちまけていいぞ!」

「分かった。傷つかないようにぶちまけさせてもらう」


 無駄に広いギルド長室の床にリュックの中身を全てを広げ、持ち帰ってきたものを見やすくした。

 砂やら土も同時にこぼれて一瞬にして床が汚くなったが、エイルは気にしていないし大丈夫だろう。


「こうして広げてみると意外と少ねぇな! もっと持って帰ってきたイメージだったわ!」

「確かにそうだな。ただ、リュックに入る量って考えたらこんなものだろう。大荷物を持って、ベニカル鉱山の攻略を行うのはやりたくないしな」


 厳選しただけあって、メタルトータス以外の鉱石もかなり希少なものばかり。

 二人で行ったことを考えれば十分すぎる量だと思う。


「それでどうやって分けるんだ? キッチリ半分? それとも互いに欲しいものを取り合っていく形式にするか?」

「俺の提案としては、巨大メタルトータスの鉱石一つか他全て。この二択でトントンだと思ってる」

「うぇ!? 巨大メタルトータスの素材だけで終わりってことか? 確かに大きいのが取れたけどよ、数で見たら圧倒的に後者の方が良いだろ!」

「なら、俺が巨大メタルトータスの素材を貰っていいのか?」

「いいぜ! だって、この普通のメタルトータスの素材は俺が貰えるんだよな?」

「もちろん」


 そう返事をすると、エイルは腕を組んで数十秒考えた後に笑顔で親指を立てた。


「よし! それで構わねぇよ! 捨てがたいけど絶対にこっちのが価値高いだろうしな! 本当に全部を貰っちまうぞ!」

「ああ。交渉成立だな」


 俺の目的は最初から巨大メタルトータス一択だった。

 ダンも巨大メタルトータスの方が喜ぶだろうし、エイルが後者を選んでくれて良かった。


 まぁ普通のメタルトータス含む、希少な鉱石の詰め合わせセットもプレゼントとしては十分なものだし、どちらを選んでいたとしても良かったんだけどな。

 何はともあれ、あっさりとお互いが納得する形で分配が終わって良かった。



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