第187話 報告会


 巨大メタルトータスの鉱石を手に取り、少しかざして見てみる。

 あの場所が暗かったこともあって鉱石の種類が判別できないと思っていたが、こうして明るい場所で見ても何の鉱石なのか分からない。


 ミスリルのように光の当て方で虹色に光る鉱石は分かるが、この鉱石は虹色に発色している。

 こんな色彩の鉱石なんて見たこともないし、触れてみた感じ強度も驚くほど高い。

 何の鉱石かはさっぱりだが、これらの条件だけで見ても希少で使える鉱石なのは間違いないとは思う。

 

「やっぱそれ、凄い鉱石なのか?」

「分からん。鉱石は専門外だからな。エイルも何の鉱石なのか分からないのか?」

「俺もさっぱり分からねぇ! だからこそ、こっちの希少な鉱石と分かってる方を選んだわけだしな!」


 長年冒険者をやっていたエイルですら分からない鉱石。

 そう聞いただけで、少しでも早くダンに見せたくなってくる。


「そりゃそうか。俺も自分のためって考えたら迷わず後者を選ぶかもしれない」

「だろ? 希少なのかもしれねぇが、絶対にこっちの詰め合わせの方が価値は高い!」

「互いに納得して決められたのは良かったよ。それじゃ俺はもう行くぞ。今回は色々と助かった。また何か面白い情報があれば教えてくれ」

「おう! 何か面白い情報仕入れたら、また誘うから一緒に冒険しようぜ! ……さて、俺も帰って寝るとしようかな!」


 一仕事終えた気になったのか、エイルはとんでもないことを口にしている。

 朝早くに出勤しただけで、仕事もせずに寝ていただけのはずだ。


 また帰って寝るということは、エイルは実質寝てしかいない。

 マイケルのことも考えると色々と言ってあげたい気持ちになるが……面倒くさいので触れることはせず、俺は静かにギルド長室を後にした。



 冒険者ギルドを出た俺は、そのままの足で『シャ・ノワール』に向かうことにした。

 分配が思っていたよりも早く終わったため、向かうには早すぎるぐらいの時間だが、三日間もの休みを貰っていた訳だし早めに出勤するのも普通なはず。

 三日間で大きな変化はないとは分かっているものの、楽しみにしながら店へと向かった。


 店の中はまだ暗いが一部から明かりが漏れ出ているため、レスリーは起きている様子。

 明かりが漏れ出ている裏口から回り、ドアをノックするとすぐに開けてくれた。


「誰かと思ったらジェイドかよ! なんで裏口から来たんだ?」

「表の扉は鍵が閉まっていたし、光が漏れ出てたのが裏口だったからな。こっちから入った方が手間がかからないと思った」

「そんな訳の分からない気遣いなんてしなくていいのによ! とりあえず中に入れ! 休みのことを色々聞かせてくれや!」

「ああ。俺も休んでいた間のことを聞きたい」


 裏口から入り、雑に置かれている椅子を引っ張り出して適当に座る。

 レスリーは何かのチラシを制作していたようで、作業の続きを開始したため俺から話しを振ることにした。


「まずは忙しい時に三日間も休みをくれてありがとう。お陰で良い休日を過ごすことができた」

「そりゃ良かった! まぁ休日返上で働かせていた訳だし、礼を言われるのはおかしいけどな! 俺の方こそ休みを作るのが遅くなって悪かった!」

「いや、俺の意思で働いていた訳だし謝る必要はない。働きたくて働いていたようなもんだしな」

「だったら礼を言われるのもおかしいだろ! ……って、この問答は不毛だな! 休みに何をしていたか聞かせてくれ! ずっと寝ていたってことはないだろ?」

「ああ。長期休みでしかできないことをしたつもり。話すと長くなるけど大丈夫か?」

「もちろん! 作業しながら聞けるし丁度良い!」


 話が長くなる許可を貰ったため、俺はレスリーにベニカル鉱山での話を一から十まで全て話した。

 一種の冒険譚のような内容だったことからも、レスリーも非常に楽しそうに聞いてくれた。


「いやいや……凄すぎだろ! 内容が面白すぎて全然作業が進まなかったぞ!」

「楽しく聞いてくれたなら良かった。俺としても面白かったからな」

「それだけの冒険ができたなら、そりゃ楽しかっただろうな! ただ、体は休めてないんじゃないのか? 普通に働いているよりも大変そうだと思ったぞ!」

「帰ってきてからはゆっくり休んだから、体力的には完全に回復している。あと何度も言っていたが、本当に休みなしで働けるくらいに余裕があったからな」

「その話を聞く限り、俺に気を使って無理をしていたってことではなかったのは分かった! ただ、休みは休みで今後もしっかりと取ってもらう!」


 全く折れる気配のないレスリー。

 レスリーこそ休んでほしいところだが、俺が何を言っても変える気はないだろう。


「それにしても本当に不思議だよな! 冒険者としてもやっていけるぐらいの実力があったのに、寂れた俺の店で働いたんだからよ!」

「そんなことはない。今じゃヨークウィッチの人気店の一つだし、俺はこの店で働きたくて働いたんだ。それに今回もほとんど同行者のお陰でなんとかなっただけで、俺自身は大したことない」

「ジェイドが大したことないなら、俺は筋肉しか取り柄のない木偶の坊になっちまう!」

「レスリーの良いところを俺は知っているぞ。一つずつ挙げていってあげようか?」

「いらねぇいらねぇ! 次は俺が休んでいた間にあったことを話す番だから、ジェイドは黙って聞いていてくれ!」


 照れくさそうに話しを遮り、話題を変えてきたジェイド。

 振り切って良いところを羅列しても良かったのだが、俺が休みだった間のことは気になるし大人しく聞くとしよう。



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