第185話 脳筋
先に動いたのはもちろんエイル。
敵の出方とかを一切気にする様子はなく、自分が楽しめればいいという考えが極まっている動きだ。
そんな考えなしに突っ込んできたエイルに対し、蝙蝠の魔物たちは余裕な感じであしらおうとしていたが……。
踏み込んでからのエイルの一歩は凄まじく速い上に、ストライドが非常に大きい。
蝙蝠の魔物の予想していたよりも近づかれたようで、慌てた様子で飛んで逃げようと動いたが――腕を目一杯伸ばして振った大剣の剣先が当たった。
ただ決してクリーンヒットはしておらず、見た限りでは浅すぎるくらいと思えたが、斬られた蝙蝠の魔物は血を噴き出しながら墜落。
そのままトドメを刺し、エイルはあっという間に蝙蝠の魔物を一匹屠った。
「まずは一匹!! 襲ってきたからには全員斬り殺してやるからな!!」
本当にただの力技で押し通したな。
マグマデルヘッジとの戦闘で力技で戦ったつもりだが、本当の脳筋の戦い方を見てまだまだ甘かったと思わせられる。
……まぁこんなアホみたいな戦い方をするつもりは一生ないが。
そして、そこからはただの一方的な虐殺が始まった。
上に逃げても石での投擲で撃墜し、地上にいる魔物はほぼ一撃で斬り裂くといった感じ。
狭い場所故にどこにも逃げ場はなく、様々なスキルや能力を持った魔物が集まってきた感じだったのだろうが、何もさせることなくエイルの手によって壊滅させられた。
「ふぃー。ひっさびさに気持ちがスッキリしたぜ!!」
「中々の暴れっぷりだったな。倒した魔物の剥ぎ取りはするか?」
「いらねぇんじゃないか? 特に強い魔物がいた訳じゃねぇし、良い素材が手に入るとは思えねぇ!」
エイルはそう言っているが、蝙蝠の魔物は良い素材になる気がしている。
用途がいくつかありそうだし全て持ち帰ってもいいところだが、乗り気ではなさそうだし羽だけ持って帰ろう。
手分けして死体の処理を行いつつ、俺は蝙蝠の魔物の羽を一匹分剥ぎ取った。
魔物の気配は完全になくなったし、ここからは戦闘が起こることなく帰ることができるはず。
「この魔物の肉を使って、湖にいる魔物を釣るか? マグマデルヘッジみたいな美味い魔物がいるかもしれねぇぜ!!」
「確かに気にはなるが、釣りは別の日にしよう。ここからは灼熱地獄を戻ることを考えると、腹はいっぱいにしておきたくない」
「……それもそうだな! 荷物を持つのは俺だし釣りはまた次の機会にするとして、今は一刻も早く帰ることを考えるか! あのあっちぃところをすぐに抜けてぇ!」
「帰り道は頭に入っているから、行きよりも簡単に抜けることができるはずだぞ。マグマデルヘッジも倒してあるしな」
これからの道のりを考え、地底湖での釣りは行わずに戻ることにした。
地底湖だからこそ生まれた魔物もチラッと見えたし、メタルトータスも湖の中にまだいる。
調べたい欲求はあるものの今回の目的は達成しているため、次の機会にし……今はベニカル鉱山から帰ることだけを考える。
頭の中にルートは入っているため、地形が変化していない限りは簡単に戻ることができるはずだ。
頬を軽く叩き気合いを入れてから、俺達は溶岩で高温となっているエリアへと向かった。
帰り道は完全に把握していたことから、想定していたよりも早く溶岩地帯を抜け出ることができた。
道中で軽く採掘を行ったものの、体力を余らせた状態でベニカル鉱山の人力で掘られた地点まで帰ってこられている。
「ひぃー! やっぱ暑すぎたな! 早めに抜けれたのは良かったけど、次来るときは対策しねぇとしんどいわ!」
「対策って言っても難しいけどな。寒い場所なら着込むとかできるが」
「大量の氷とか持ってきたらマシになるだろ! あと水も余裕をもって持ってくれば良かった!」
水に関してもかなり難しい問題。
大量に必要になるのに、思っている以上の重量で重荷となる。
消費と共に荷物が軽くなることから、エイルは序盤でガブ飲みしようとしていたぐらいだしな。
「とりあえず無事に帰ってこられて良かった。ここまで来れたら後はヨークウィッチに戻るだけだ」
「疲れたし、ベニカル鉱山に入る前に泊まった場所で一泊するか? てか、今が夜なのか朝なのかも分からねぇ!」
「今は明朝だな。まだ若干暗いぐらいの時間帯だと思う」
「てことは、ほぼ丸一日潜ってたって訳か! 道理で眠い訳だぜ! って、なんでジェイドは今の時間が分かるんだよ!」
「体内時計でおおよその時間が分かるだけだ。で、洞窟を抜け出るころには明るくなっていると思うが、それでも一泊するのか?」
朝になってしまった訳だし、俺としては無理をしてでもヨークウィッチに戻り、そこからゆっくりと体を休めることができる場所で休むのが良いと思っている。
汗を大量にかいたし、少しでも早くシャワーを浴びたいしな。
「うーん……夜なら絶対に一泊だったが、本当に朝なら戻っちまうかぁ。狩り勝負のリベンジをしたかったんだけどよ!!」
「リベンジならまた別の時でもできるだろ。なら、鉱山を出たらそのまますぐに帰ろう」
「おう! ……それでだけどよぉ、荷物ちょっと持ってくれねぇか?」
「駄目だ。約束だからな」
「ちぇっ、ケチ!」
文句を垂れるエイルを無視しながら、舗装された道を急いで歩く。
行きはワクワクしたし、溶岩地帯は警戒していたから何とも思わなかったが、何もなく危険すらない道を戻るというのはひたすらに退屈。
一秒でも早くヨークウィッチに戻れるよう、俺は前だけを見て歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます