第184話 虹色の鉱石


 濡れた地面を這いながら、狭い穴の中を進んで行く。

 臭いもないし水も綺麗なんだが、暗殺を行うために狭い下水道を通って侵入した時のことを何故か思い出してしまう。


 そんな嫌な記憶のせいで、急に変な臭いがしてきた気がするが……これは恐らく錯覚。

 暗くて狭く何もない場所だと色々なことを考えてしまうため、早いところ奥にいるであろうメタルトータスを捕まえてしまおう。


「おーい、ジェイド!! 奥は大丈夫か!? 何か魔物とかいたかぁ!?」

「大丈夫だ。エイルは鉱石の採掘でもしていてくれ」

「分かった! こっちは暇だし鉱石を取っとくわ!!」


 外で待っているエイルは暇なようで頻繁に声を掛けてくるため、何かしらの作業を行わせる。

 そこからは無言でただ這いずる時間が続き、僅かに感じていたメタルトータスの気配を明確に感じるようになってきた。


 ここからは更にペースを上げてほふく前進を行っていると、少し先に小さな尻尾と後ろ足が見えた。

 サイズはこの穴と同じくらいで、先ほど地底湖で捕まえたメタルトータスと比べると異様なくらい大きなメタルトータス。


 頑丈な顎を持っているだけで戦闘能力がない魔物だというのは、先ほどメタルトータスで分かっているため甲羅を掴んでそのまま後退を開始。

 俺から逃げようと暴れ始めたが、この体に対して狭い穴じゃ手を振りほどけるほど激しく暴れることはできない。


「エイル! 捕まえたから今から戻るぞ!」

「了解! 魔物も来てないし、こっちはいつでも戻ってこられるぜ!!」


 エイルにそう声を掛けてから、カタカタと揺れるメタルトータスをガッシリと掴んで後退し始めたのだが、片手が塞がっている上に後退しなくてはいけないということもあって全然進むことができない。

 鉱石を背負っているからか体積に対して、異様に重いメタルトータスにイライラしながらも、なんとか行きの五倍ほどの時間をかけて穴から抜け出ることができた。


「おっ! やっと足が見えた!! ジェイド、遅すぎだろ!」

「この体勢で戻ってたんだから仕方ないだろ。それよりもメタルトータスを引っ張り出すから、頭を叩いて絞めてくれ」

「準備はできてるぜ! いつでも引っ張り出してくれて構わねぇ!」


 先に俺が穴から脱出し、それから最後の抵抗を見せているメタルトータスを無理やり引っ張り出す。

 体が全て出たところをすかさずエイルが頭を叩き、メタルトータスは簡単に絶命した。


「うっひゃー! 本当にでけぇメタルトータスだな!」

「背中の甲羅の鉱石は一体なんだ? 虹色に輝いているようにも見えるが……」

「俺には全然分からねぇ! 見たこともないし、もしかしたら未知の鉱石に変化しているんじゃねぇか?」

「だとしたら期待はできるな。体がデカすぎるから、とりあえず甲羅から鉱石の部分だけを取り出して鞄に入れよう」


 二人で手分けして甲羅を綺麗に叩き割りながら、鉱石の部分だけを抜き取った。

 こうして鉱石部分にしてみると小さくなってしまった感はあるが、これだけ大きな鉱石は滅多に見ることはできないはず。


 それに見たこともない鉱石なだけあり、期待感も半端ではない。

 これがもし仮にクズ鉱石だったとしても、このワクワクを味わえただけでベニカル鉱山に来た甲斐はあったと思う。


「よし。後は無事にヨークウィッチまで戻るだけだな。俺を待っている間に行っていた採掘の方はどうだったんだ?」

「ミスリルとダイヤモンドだけを採掘した! 街に戻ったら分けようや!」

「なるほど。ちなみに鞄の容量はどんな感じだ? 余裕があるならもう少し採掘したいんだが」

「いいねぇ! ……いや、待て。荷物持ちは俺だろ? じゃもう持てねぇよ!」

「鞄を見せてみろ。メタルトータスの鉱石を入れた時は、まだ余裕があったように見えたぞ」

「やなこった! もう疲れたし早く帰るぞ!」


 重いという割に俺から素早く逃げたエイルは、来た道を急いで戻って行った。

 俺としてはせっかくの鉱石がたくさんある場所だし採掘をしたかったが、あの様子じゃ止まるつもりはないだろうな。

 小さくため息をついてから、戻って行ったエイルを追いかける。


 俺よりも大分先行して進んでいたエイルだったが、何故か中途半端な場所で足を止めていた。

 何か見つけたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「ジェイド、前を見てみろよ! さっき天井にぶら下がってた魔物が降りてきているぞ!」

「……本当だな。さっき襲ってこなかったのは、逃げ道を封じるのが目的だったのかもしれない」

「俺達を倒せる算段があるってことか? へへ、上等だぜ! 一瞬でぶっ殺してやる!」

「今回は俺がサポートに入る。エイル、気をつけろよ。何をしてくるか分からないし、背後に他の魔物も集まってる」

「大丈夫だ! 松明と荷物を預かっててくれ! 全然戦えてなかったし、うずうずしてるからよ!!」


 翼を広げて威嚇しているような体勢を取っている蝙蝠の魔物に対し、魔物以上に怖い笑みを浮かべながら大剣を抜いたエイル。

 簡単には帰れるとは思っていなかったが、こんな早々から魔物の群れに襲われるとはな。

 気配的に大したことない魔物だと思うが、エイルがやられないようサポートを行うとしようか。


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