第262話 忠告

 

「――っと話が脱線しちまったが、情報がちゃんとしたものだと分かったし、俺からの話は以上だ! わざわざ足を運んでもらって悪かったな!」

「全然大丈夫だ。暇していたからな」

「それなら良かった! それじゃもう帰ってもらっていいんだが……アルフィは先に出ていってくれや!」

「えっ? 僕一人だけ先に出るんですか? なんでですか?」

「なんでもいいだろ! とりあえずお前がいたら話せないことがあんだよ! 早く部屋から出て行け!」

「理由くらい教えてくださいよ! むー……。ジェイドさん、僕はセルジさんと先に『クレイス』に行っているんで後で来てください!」


 部屋に残って一緒に話を聞きたそうにしていたが、兵士長の圧に負けて部屋から一人出ていったアルフィ。

 それにしても、兵士長の話ってのは何なのだろうか。

 

 あり得る話としたら、協力してくれてと頼まれた任務についての話。

 ただ、その話ならばアルフィをわざわざ追い出す必要がないからな。


「よし、アルフィの奴はちゃんと出ていったな!」


 扉の前で盗み聞きされていないか、一度扉を開けて外を確認してから、再び椅子に座り直した兵士長。

 座っていたから正確な身長は分からなかったが、やはり二メートルを優に超す長身だった。

 これで見た通りの筋肉量だし、若い頃は暴れ回っていたのが分かる。


「そんなに入念に人払いをして何の話なんだ? アルフィに聞かれたくない話ってことだよな?」

「いや、絶対に聞かれたくねぇって訳ではないが聞かせたくねぇ話だな!」


 益々どんな話なのか想像がつかなくなった。

 早く本題に入ってもらうとしよう。


「気になるから早く本題に入ってくれ。見当もつかない」

「お前さん、ブレナン・ジトーについて調べているんだってな」

「……アルフィとセルジから聞いたのか?」

「いや、二人からお前が調べていると聞いた訳ではねぇ! ただ、急にブレナン・ジトーのことを調べ始めたからな! そんな中『バリオアンスロ』についての重要な情報の提供者としてお前が来た! 親しげにしていることからも、お前がブレナン・ジトーについて調べているんだと睨んだんだが……間違っていたか?」


 兵士長はいたずら小僧のような笑みを見せており、俺がブレナン・ジトーについて調べていると確信している様子。

 二人にはもうちょい上手くやってほしかったが、表情を見る限りでは悪い感情を持たれているようではなさそうだし、バレてしまったからには兵士長にも協力を仰ぐとしよう。


「見た目と違って意外と頭脳も使えるんだな」

「馬鹿そうな見た目で悪かったな! こう見えても兵士の中では頭が良い方なんだわ! まぁ兵士が馬鹿ばっかってのもあるが!」

「兵士長の予想通り、俺がブレナン・ジトーについて調べている。俺が情報集めに協力する代わりに、二人にはブレナン・ジトーについての情報を集めてもらっていた」

「やっぱりそうだったか! とにかく二人にはブレナン・ジトーの情報集めから手を引かせてくれ! それとお前もこれ以上調べるのは止めた方がいいぞ! これは情報提供してもらった俺からの忠告だ!」


 今度は真剣な表情でそう忠告してきた兵士長。

 クロの方ではなく、ブレナン・ジトーについて調べるのを止めた方がいいというのはかなり妙。

 何かしら情報を持っているのかもしれないな。


「手を引けというからには何か理由があるのか? 知っているなら教えてほしい」

「知っているというか、ブレナン・ジトーは評判と違って変な噂があんだわ! ジトーについて調べていた記者が何人も行方不明になっていて、対立していた人間も消えているって嫌な噂がな!」

「噂か。本当かどうかは定かではないのか?」

「俺は七割くらいは本当だと思っているぜ! だから、二人から手を引かせろと言っているんだしな! 実際にブレナン・ジトーと対立していた人間の一人は本当に行方不明になっている!」


 慎重な性格をしているし、目立つようなことはしないと思うが……一人くらい目立った人間を消していてもおかしくない。

 記者に関しては確実に消しているだろうが、帝都ではないこの街でも消しに動くってことか?


「そんなに危険な人物なのか。評判高い人物だしここは帝都ではない。だから大丈夫だと思っていたが……その話が本当なら止めた方がいいな」

「悪いがそうしてくれると助かる! 特にあの二人は馬鹿だから目立っちまう! その代わり重要な情報——とはまではいかないが、役に立つであろう協力を俺がするつもりでいる! だから、協力を頼んだ件については全力でやってくれ!」

「兵士長が協力してくれるのはありがたいな。元々手を抜くつもりなんてなかったが、全力で当たらせてもう」

「ああ! よろしく頼んだぜ!」


 兵士長と握手を交わしてから、俺は兵士長室を後にした。

 意外な話だったが、俺としてもこの件のせいで二人が危険な目に合うのは避けたいところ。


 この街にまでは手が及んでいないと高を括っていたが、クロ相手には少々甘かった考えだったかもしれない。

 改めて気を引き締める良い機会だったし、俺の心配までしてくれた兵士長には感謝しないといけないな。

 とりあえず二人は『クレイス』で待っているらしいから、それとなくクロとブレナン・ジトーについての情報収集は断るとしよう。

 

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