第128話 新しい剣
一度リフレッシュした俺は、フィンブルドラゴンの角と翼膜、それから大金を持って『ダンテツ』へとやってきた。
中に入ると相変わらずの熱気で、立っているだけで汗が噴き出るほど暑い室内。
そんな店内にはリズム良く鉄を打つ音が響いており、奥にダンがいることが分かる。
相変わらず客の姿は見えないが……ひとまずダンを呼ぶとしよう。
「ダン、いるか?」
「んあ? いるぞ。ちょっと待ってろ!」
返事があったためしばらく待っていると、奥から汗だくのダンがやってきた。
もはやいつもこの状態のため、見慣れた姿だな。
「って、ジェイドじゃねぇか。今回は随分と短いスパンでやってきたな」
「ああ。実はここで買わせてもらった短剣が折れてしまったんだ。今日はその代わりを買いにきた」
「俺の打った短剣が折れただと!? 銀貨一枚で売った格安の短剣だが、質はそこそこ良かったはずだぞ。安く買ったからって変な使い方をしたんじゃねぇだろうな?」
ギロッと睨むように見てきたダン。
元々強面なため、背が低いながらも睨まれると迫力がある。
「雑な使い方をする訳がない。その時に戦った魔物の素材を持ってきた。こっちの話をするつもりだったから丁度良いな」
俺はそう切り出し、背負ってきたフィンブルドラゴンの素材をダンの前に置いた。
眉間に皺を寄せながら俺の出した素材を見たダンだったが、すぐにその素材が何なのか気づいたのか驚きの声をあげた。
「これってドラゴンの素材じゃねぇのか!? この翼膜は確実にそうだよな!?」
「やっぱり素材を見ただけで分かるもんなんだな。北の山に生息するフィンブルドラゴンの翼膜と角だ」
「ま、まさか……あの鉄の短剣でドラゴンをぶっ殺したってのか?」
「いや、そもそも殺してはいない。それに一撃で刃が駄目になったから、あの鉄の短剣でできたのは片翼を斬り落とすことだけだった」
淡々と説明すると先ほどまでの鬼の形相は何処へやら、口を大きく開けて間抜け面で呆けているダン。
「鉄の短剣でドラゴンの翼を落とすとか聞いたことねぇぞ! それと……そもそもドラゴンと戦うって何なんだよ! なんでそんな奴が俺の店を利用していて、しかも銀貨二枚すら支払えずに値切ってんだ!」
「それには色々と事情があるんだ。今は俺の話よりも、俺の新しい剣についてを考えてくれ」
「ドラゴンの素材を持ってきて話をするなって方が無理だろ! ……まぁ剣が折れた理由については分かった。そりゃドラゴンなんかを斬れば折れるだろうな。新しい剣についての予算はいくらで考えているんだ?」
なんだかんだ言いつつも、早速相談に乗ってくれた。
新しい剣の予算についてか。
使える金貨が十枚のため、ドンッと良い剣を買ってもいいのだが……加工費用なども考えたら、出せて金貨五枚。
ただ、新しい剣に金貨五枚。そして素材の加工で金貨五枚使ってしまうと、休日に使える金がなくなってしまうため、予算は金貨三枚が限界ってところだな。
「予算は金貨三枚。出そうと思えば金貨五枚までは出せるが、あまり使いたくはない」
「弟子にはポンッと金貨一枚ずつの剣を買ってあげていたのに、随分とシケた額だな。ドラゴンの使わない素材を売れば、一気に億万長者になれるんじゃないのか?」
「二人で倒したから俺が持っている素材はこれだけだ。そして全ての素材を使おうと思っているため、売ることは考えていない。だから予算は金貨三枚だ」
「色々と金の使い方が疑問でしかないし、それだけの実力を兼ね備えているのに金がないことにもビックリするが……まぁ分かった! 見繕ってきてやる」
ダンは胸を大きく一つ叩くと、いつものように店にある剣を見繕ってくれた。
しばらく剣を選んだダンが俺の前に並べたのは、合計三つの短剣。
どれも質の高さが窺える逸品ばかりで、どれでも良いといえば良い剣ばかり。
「これが金貨三枚で買える剣のラインナップだ。ジェイドは短剣がいいんだよな?」
「ああ、短剣がいい。というより、三本とも本当に金貨三枚でいいのか? パッと見ただけでも良い剣だってのが分かるぞ」
「あの鉄の短剣で“ドラゴンキラー”を成し遂げた人物とは、俺としても仲良くしたいからな。贔屓してくれているし構わねぇよ」
「ありがとう。なら、遠慮なく選ばせてもらう」
並んでいる短剣を一本ずつ手に取り、じっくりと眺めていく。
三者三様で人によって好みが変わる素晴らしい出来の短剣。
一本目は属性武器と呼ばれるもの。
火属性の短剣であり、斬った時にプラスアルファで火属性攻撃を与える効果を持っている。
二本目は軽さ重視の剣。
貴重な軽鋼と呼ばれる金属を使った短剣であり、ビックリするほどの軽さでありながら剣としての質も高い剣。
三本目はシンプルな短剣。
シンプル故にダンが丹精込めて打ったのが分かり、特別な効果はないだろうが単純な質でいえば圧倒的な剣となっている。
三本とも欲しいくらいの、本当に甲乙つけがたい短剣たち。
蒸し暑い店内で腕を組み、迷いに迷ったが――俺は一本の短剣を手に取った。
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