閑話 とある男の尻ぬぐい


 部屋の外からは大はしゃぎする客の声が聞こえる中、俺は使えない下っ端を呼び出していた。

 二人は床に這いつくばり、俺の怒りを収めようと必死に頭を下げているが……その生産性のない行為が逆に俺の神経を逆撫でさせる。 


「謝罪なんていらねぇんだよ。例の女から盗んでこいといった『蒼の雫』はどうした?」

「ほ、本当にすいませんでした。――うっぐ、なんでもしますので勘弁してください」

「次、質問に答えなかったら殺す。『蒼の雫』はどうした」

「そ、それが……強奪に失敗しまして、『蒼の雫』は宝石商に持ち出されてしまいました」

「はぁー、本当に使えねぇな。使えな過ぎて殺したくなってきたぞ? 日時と時間まで調べあげ、てめぇらに教えたのに失敗するか? 普通失敗しねぇよな?」

「すいませんでした。どうかおゆ――」


 壊れた機械のように、再び謝罪してきた馬鹿の首を刎ね落とす。

 本当にどうしようもないグズだな。


「ひ、ひぃぃぃ」

「質問に答えなかったら殺すって言ったのによ。謝罪は一切求めてねぇんだわ。お前は俺の言ってる事分かるよな?」


 ガクガクと全身を震わせ、まるで楽器のようにリズミカルに歯を鳴らすもう一人にそう問いかける。

 この馬鹿も一瞬謝罪の言葉を出しかけたが、隣の奴が何故殺されたのかを思い出したのか既のところで言葉を止めた。


「は、はい! わ、分かります!」

「分かってくれんならいいんだ? で、『蒼の雫』はどうした?」

「ぬ、盗むまでは上手く行っていたのですが、逃げた先で実行した仲間が兵士に捕まってしまったみたいなんです! お、俺は上手く陽動しましたし、キッチリとピンク街までは逃げきれたみたいですので本当に運が悪かったとしか……」

「言い訳はいらねぇんだよ。実行した奴が兵士に捕まって、『蒼の雫』は取り返された――と。仕事ができない上に全然シノギをあげねぇから、特別に仕事を回してやったってのに。捕まった奴はどうしたんだ?」

「わ、分かりません! 様子を見に行く前に呼び出され――」


 そこまで口にしたところで、俺は剣でもう一人の馬鹿の首も刎ね落とした。

 ほんの少しだけ許してやろうとも思っていたが、本当に使えな過ぎて駄目だな。


 大事な時期で少しでも構成員が必要ということで、仕方なく受け入れ口を広くしたらしいが、使えない連中を集めても逆に仕事が増えるだけ。

 捕まった馬鹿三号もいつゲロるか分からないし殺しに行くとして――上にはなんて報告すりゃあいいんだ。


 馬鹿の相手をし、その馬鹿の尻ぬぐいもしなくてはいけない。

 そして、その馬鹿のせいで俺がドヤされるハメになっているこの状況に、頭の血管が破裂しそうなほどイライラが止まらない。


「俺は俺でやらなきゃいけねぇことが山積みなのによッ!」

 

 雑言を吐き散らしながら転がっている生首を思い切り蹴り上げ、俺は地下室を後にする。

 ……イライラで上手く思考が回らないながらも一つ引っかかったのは、実行犯が捕まるに至った経緯。


 死んだ馬鹿の話が本当だったとすると、捕まるに至った経緯にとてつもない違和感がある。

 実行犯の奴を殺す前に問い質すとして、俺にこうして手間をかけさせた人物が仮にいるのであれば――捕まえて嬲り殺してやろう。

 確実にこれからの仕事の邪魔になるだろうしな。

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