第56話 情報交換
マイケルとの約束の時間となったため、俺は『パステルサミラ』へと向かう。
スタナから紹介してもらった店をこういった形で使いたくはなかったが、誰にも聞かれることなく落ち着いて話ができる店を知らないため、仕方なく個室のある『パステルサミラ』を選んだ。
お腹も空いているし、マイケルとの話以上に料理が楽しみになっているが……。
口封じに加えて、情報も聞き出さなくてはいけないため、気を引き締め直してから店内へと入る。
「いらっしゃいませ。本日はおひとり様でしょうか?」
「いや、連れが一人いて……。先に来ていたりしないか? 豊満な体型でキッチリとした服装の男性なんだが」
「あっ、奥でお待ちしておりますよ。案内させて頂きます」
マイケルの特徴を説明すると、すぐに思い当たったようで案内をしてくれた店員。
目立つ容姿っていうのは、こういった待ち合わせの時に便利でいいな。
あの容姿に思わぬ利点を感じつつ、店員に案内されるがまま個室へと通された。
個室の中にはマイケルが窮屈そうに椅子に座っており、俺はその前の席へと座る。
「本当に一人で来たんだな」
「ふがっ、当たり前だ。命を助けてもらったようなものだし、裏切るような真似はせんよ。……それよりも、非常に良い匂いのお店だね。料理を食べるのも楽しみで仕方がない」
「料理は話し合いを終えてからだ。美味すぎるから話が全く進まなくなる」
俺もすぐにでも注文して食べたいところだが、『パステルサミラ』の料理は美味すぎて話に集中できなくなる。
見た目で判断するのは申し訳ないが、マイケルも俺と同じだろうし注文する前に話し合いを終わらせるのが得策。
「それは残念だね。早いところ話を終わらそう。まずは……どちらから質問を行うかね?」
「俺から質問させてもらう。マイケルは何を追っていたんだ? 先ほど襲われたのが偶然ではないことは分かっている」
「いきなり核心をつく質問をするね。まぁ別に話しても構わない。あいつらは『都影』っていう王国の色々な街に蔓延っている組織なんだ。残念ながら、以前からこのヨークウィッチにも『都影』が入ってきていて、冒険者ギルドで詳しく調べていたんだよ」
全部知っている上で、俺と同じように情報を集めていたという訳か。
嘘はついていないように見えるし、追っていた理由にも納得がいく。
「やはり『都影』と知っていて追っていたのか」
「君も私と同じく『都影』を追っていたのかね? というより、何者なんだ? どこかで見たことがある気がするんだ」
「詳しくは話すつもりはないが、俺にとって不都合な組織だから調べていた。見たことあるのは当然だ。この間、俺とマイケルは実際に話したからな」
「実際に話した? 私と話したのかね?」
「覚えていないか? 依頼に宣伝を書いて駄々こねてたんだが」
そこでようやく思い出したのか、ビックリするくらい手を大きく叩いた。
「あー! ようやく思い出したよ。あの面倒くさい依頼主だったか!」
「そうだ。ビラを見たからもう気づいただろうが、俺は『シャ・ノワール』という道具屋で働いている」
「道具屋。特殊な道具屋なのかね?」
「いや、俺が特別なだけで至って普通の道具屋だ。だから、くれぐれも俺のことは他言しないでくれ。口外したのが分かったら――殺してしまうかもしれない」
俺のその言葉に反応し、ここまで力を隠していたマイケルは大量に噴き出た汗と共にレイピアに手をかけた。
ただレイピアを引き抜く前に、俺が座っている真後ろまで即座に移動。
首元に手刀を添えて、動きを静止させる。
「――ぶがっ、ふぅー……。やはり君は只者じゃないね。さっきなんかよりも明確に死が脳裏を過ったよ」
「約束さえ守ってくれれば何もしないから安心してくれ。俺もただ平和に暮らしたいだけなんだ」
『都影』の人間を二人も殺めておいて何だが、これは本心からそう思っている。
平和な街で平和な仲間といつまでも一緒に暮らしていたい。
過去の件もあるため“いつまでも”は無理なことは分かっているから、せめて少しでも長い時間を過ごせるように尽力を尽くすつもりでいる。
善人であろう副ギルド長のマイケルをこうして脅そうともな。
「大丈夫だ。このことは決して口外しない。副ギルド長としての立場もかけてね」
「そうしてくれると助かる。俺もマイケルもな」
「い、いちいち脅さないでくれたまえ。心臓に悪すぎるからね」
首元に当てた手刀を下ろし、俺は再び席へと戻る。
ここからはマイケルが持っている情報を貰いつつ、『都影』についてを考えていく。
冒険者ギルドが動いているのであれば、俺の出番はもうないと思ってもいいと思うが……。
情報はいくらあっても困らないからな。
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