第126話 ベノムマンティス
ベノムマンティスとは動きの速度が違いすぎるせいで、トレバーが剣を振り下ろしたのを見てから動いたベノムマンティスのカマの方が先に、トレバーの首元にかかった。
命を刈り取るような凶悪な形状をしたベノムマンティスのカマ。
かすっただけでも毒が傷口から体内に侵入し、動けなくさせる正に死神の鎌。
そして、そんな迫り来るベノムマンティスのカマにも一切怯むことなく、防御の姿勢を取らずに剣を振り下ろしているトレバー。
俺からしたらベノムマンティス以上に狂気に感じるトレバーの動きなのだが、そんなトレバーの動きが正しかったと思わせるように、背後から飛び出たテイトがベノムマンティスの鎌を完璧に防いだ。
両のカマから繰り出される連撃も完璧に対応。
初見なはずなのだが、格上相手の魔物の攻撃に対応できているテイトの戦闘センスには本当に驚かされる。
鋭いカマでの一撃も玉鋼の短剣のお陰もあってか、負けていないどころか逆にベノムマンティスのカマが傷ついているほど。
そんな中自分に向かってくる攻撃に一切気にも止めず、振り下ろしていたトレバーの一撃が首に入った。
力不足なのは否めないが、前回と違って今回は武器のお陰で首の半分ほどまで斬れている。
キチキチという耳障りの悪い音を立てながら、少し怯んだ様子を見せたベノムマンティスをテイトが仕留めに動いた。
剣を振り下りしたトレバーと入れ替わるように飛び出たテイトは、果敢にベノムマンティスに攻撃を加えていったが、完全に防御の姿勢を取ったこともあって仕留めきれていない。
読みではテイトが上回っているが、単純なスピードとパワーではベノムマンティスの方が上。
次第に冷静さを取り戻したヴェノムマンティスに押し返され始め、間一髪のところでカマでの攻撃は防いでいるがもう反撃は厳しい状態。
「テイト、トレバー。撤退できるか?」
逃げる練習もさせたい思惑もあってそう声を掛けたのだが、返事ができないほど追い詰められている。
……これは助太刀に入った方がいいな。
返事がないため俺の独断でそう決め、一方的に攻撃を受けているテイトを守る形で間に入り込む。
序盤は押されていたこともあり、油断の一切ないベノムマンティスのカマが俺に向かって振り下ろされた――が、フィンブルドラゴンの一撃に比べたら可愛いもの。
人間でいうところ肘の部分を持って動きを止め、そのままカマを力で強引にへし折る。
緑色の血液が噴き出て、再びキチキチといった音を立て始めたベノムマンティスの首を、へし折ったカマを使って切り落とした。
飛んだ首が地面に落ち、残された胴体は未だにピクピクと動いている。
生命力が高いため一日くらいはこのまま動き続けるだろうが、カマも捥ぎ取ったしこのまま放置していても危険性はない。
捥ぎ取ったカマも何かに使えそうだが……今は特にいらないな。
卵嚢がついている大木にぶん投げ、二本のカマが突き刺さったことを確認してから二人の下へと近寄る。
「惜しかったな。オークの時よりも勝てそうだったぞ」
「僕の一撃がもう少し深く入っていたら……確実に勝てていたと思います!」
「オークよりも恐怖は何倍も大きかったです。ただ、楽しかったですね」
二人共に手ごたえはあったのか、悔しさの残るような表情を見せながらも楽しそうな顔をしている。
難度Cのベノムマンティス相手に戦えていたし、二人にとっても自信がついた戦いだったはずだ。
「手ごたえがあったなら良かった。ここまで良い戦いができると思っていなかったぞ」
「最後は押し切られてしまいましたが、すぐに同じ相手と戦いたいですね。次なら勝てそうな気がします」
「僕も怖いことには怖いですけど、ベノムマンティスと戦いたいかもしれません!」
目をキラキラさせながら、そう訴えかけてきた二人。
今回は上手く行き過ぎていた感があったし、体力的な心配もあるが……続けて戦闘を行わせてもいいかもしれない。
次のベノムマンティス戦で倒すことができたら御の字だし、完敗だったとしても二人の糧になるはず。
「……分かった。もう帰路につこうと思っていたが、もう一匹だけ探して戦うか」
「ありがとうございます。次は必ず私達だけで仕留めます」
「同じ魔物ですもんね! 連続で戦うなら――勝てるんじゃないでしょうか! でも、見つけることはできるんですか?」
「今のはメスだったから、オスがどこかにいるはずだ」
ただのマンティスだと、オスは産卵した時にメスに食われてしまうのだが、ベノムマンティスは少し違う。
オスだけでは栄養が足らないため、メスの栄養を補うために死に物狂いで餌を探して回る。
自分の体力も顧みずに動くため、体も一回り小さいしメスよりも弱いというのがオスの特徴。
このこと考えても、さっきのメスの伴侶であるオスがこの付近にいるのは間違いない。
道中で何かがベノムマンティスに襲われた形跡があったことからも、行動範囲は絞り込めている。
巣があるこの場所に留まっていれば確実に戻ってはくるのだが、それでは時間がかかりすぎるからな。
目星のつけた場所に向かい、こちらからベノムマンティスを狩りに向かう。
集中して五感を働かせ、二人を先導しながら俺は西の森を進んで行ったのだった。
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