番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その6


 グラッグ海を目指す道中で、俺は更に一体の魔物を狩ることに成功。

 “ごろごろどり”という名前の魔物で、名前から分かる通り鳥系の魔物。


 鳥系の魔物と言うことでフライレイクファルコンと被ってしまっているが、基本的に俺が食べるために獲った魔物だからな。

 味が良かったら帰りに狩る可能性もあるが、基本的には腹を満たすだけのもの。


 そうは言っているがマイケルが教えてくれた美味な魔物の一匹だし、非常に美味しい可能性は高い。

 狩る際に面倒だったのは高い木に止まっていたぐらいで、捕まえた際も一切抵抗しなかったから楽に捕まえることができた。


 これで美味しかったら、かなりコスパの高い魔物なのは間違いない。

 ごろごろどりを担ぎ、そんなことを考えながら歩いていると……目の前にグラッグ海が見えてきた。


 海をこの目で見たことはないのだが、名前の由来を知らなければ本当に海と思ってしまうほどの大きな湖。

 俺は目が良い方だと思うが、そんな俺でも対岸を目視することができない。


 この湖ならば何がいてもおかしくないし、実際にこの湖の中からは強い魔物の気配を無数に感じる。

 想像以上に深くもあるようだし、一度素潜りしたい気分になってくるが……とりあえず落ち着こう。


 フライレイクファルコンがいつ来てもいいように、見晴らしのいい場所に持参したテントを建てる。

 クロに森の中に放置された時はテントなんかなく、自分で簡易的な家を建てたため、今回もテントすらいらないのではと思っていたが、家を作っている間にフライレイクファルコンが来たら本末転倒もいいところ。


 一瞬たりとも見逃さないよう、今回は簡易的なテントを持参したという訳だ。

 周囲の警戒を怠らず、見晴らしのいい場所にテントを建てた俺は、まずはグラッグ海から調べることに決めた。


 調べるといっても潜るようなことはせず、地上から眺めるだけに留める。

 釣りぐらいならしてもいいと思うが、とりあえずは何も持たずに覗き込むようにグラッグ海を見た。


 テントを建てたところから見たグラッグ海は、周囲の景色も相俟って非常に綺麗だったのだが……近くで見ると水が濁っている上に、何かの肉片や骨なんかが浮いていてとにかく汚い。

 臭いも塩混じりの水の香りに血生臭さが混じっているし、一般人が素潜りなんかしたら、例え魔物に殺されなかったとしても確実に何らかの病気にかかるのは間違いない。


 それに病気にかからなかったとしても、これでは何も見えないだろうし、この水の中では色々な耐性がある俺でも目を開けたくない。

 気配だけを頼りに獲物を捕ることは可能だろうが、とりあえず素潜りは最終手段として取っておこう。


 期待していたこともあり、俺は残念に思いながら水辺から離れようとしたところ――。

 水中から魚のような魔物が飛び出してきた。


 不意を突かれたとはいえ、動きがあまり速くなかったから余裕で避けることができたが無茶苦茶な魔物だな。

 全長は一メートルほどで、鋭い牙を持ち合わせている不細工な魔物。


 陸地へと飛び出してきたはいいものの、水の中に戻る術は持ち合わせていないようで、俺を睨みつけながらバタバタと跳ねている。

 こうしてみると滑稽でしかないのだが、避けられなければ噛みつかれ、更にバランスを崩せば水の中に転落。


 一般人ならそこでお陀仏だし、グラッグ海が危険と言われている理由が早速分かった。

 襲ってきた魔物は水の中に戻さず、ヒレの部分に剣を刺してトドメを刺す。


 見た目と臭いからして、到底食べられる魔物ではないと判断したため、殺した後に湖の中に戻したのだが……。

 先程の魔物を落とした瞬間にバシャバシャと水飛沫が上がり、一瞬で他の水棲魔物に食われたことが分かった。


 地上なんかよりも、激しい弱肉強食の世界が繰り広げられているグラッグ海。

 そこの頂点に君臨するアルデンギウスを狙って捕食するフライレイクファルコンがどれだけの化け物なのか――今から楽しみでならない。


 今度こそ水辺を離れ、テントを建てた場所まで戻ってきた。

 今日はハイドスクワロルの蜜しか舐めていないため、流石に腹が減っている。


 先程狩ったごろごろどりを捌いて、食べてみることにしよう。

 血抜きは既に済ませているため、作業開始から三十分もせずに食材の姿へと変わった。


 臭み取りとして、近くに生えていた野草を採取し、ごろごろどりを野草で包んで焼き上げる。

 香ばしい肉の香りと野草の爽やかな香りが混ざり、非常に食欲の唆られる香りが充満しだした。


 そんな匂いに釣られてか、真下では魔物が寄って来てバシャバシャと激しい水音を立てている。

 ここは高い場所のため、先ほどのように水面からのジャンプでは決して届かない。


 そのため特に気にすることなく、焼けたごろごろどりの野草焼きを食べることにした。

 骨の部分を手で持ち、一気にかぶりつく。


 ――やはり美味しいな。

 野草で包んで焼いたお陰で香りが良くなっただけでなく、肉汁もしっかりと閉じ込められている。


 肉本来の旨味が凄まじいため、一切味付けはしていないのに十分すぎる美味しさ。

 柔らかくジューシーであり、野草の香りが良いアクセントになっている。


 ……が、ハイドスクワロルの蜜に比べたらインパクトは大分薄い。

 まぁそれでも、店の商品としては十分すぎる味ではあるが、フライレイクファルコンを狩ることができたのであれば、帰りにわざわざ狩る必要はなさそうだ。

 厳しめにそんな採点をつけながらも、俺はあっという間にごろごろどりの肉を完食したのだった。




————————————

本作のコミック第一巻の発売日しております!

本当に面白い出来となっておりますので、どうか一巻だけでも手に取ってください<(_ _)>ペコ

何卒よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る