第173話 普通の山
ヨークウィッチから南に進んで行くこと約半日。
俺達は目的地であるベニカル鉱山付近に辿り着いた。
昼過ぎに出発したため、辺りは既に真っ暗。
道中で聞いていた話では活火山と言っていたことから、夜だろうが目立つ山なのかと思っていたが一切そんなことはない。
あの山がベニカル鉱山と教えてもらえなければ、無視していたぐらいに見た目は普通の山。
フィンブルドラゴンを討伐した時に登った北の山の方が、遥かに迫力があったくらいだ。
「なんというか……期待外れ感が否めないな」
「いやいや! 見た目がしょぼいだけだろ? 一度だけ来たことがあるが、山ん中は本当にすげぇから!」
「無駄に期待はしないでおく。それよりここからの動きはどうする? このまま山の中に入るか?」
「いや、一度ここで寝ようぜ! 暗くてどっから入ればいいのかが分からん!」
「なるほど。明るくなるまで待つってことか」
俺は夜目が利くため真っ暗だろうが問題なく見えるが、初めてきて何も知らない俺が見えていても仕方がない。
エイルが提案してきた通り、明るくなるまで待つのが得策だろう。
ここまでの移動も飛ばしてきたし、危険な鉱山なら休憩も絶対に必要。
挑む前に休めるという点でも、このタイミングでの休憩はベストなはずだ。
「そうそう! 適当に火を焚いて、順番に寝ようぜ!」
「飯はどうする? 急いで出てきたから俺は朝から何も食ってないぞ」
「俺も食ってないが……飯なんか持ってきてないしなぁ! ジェイドはなんか持ってきたのか?」
「ジャーキーくらいだな。道中で狩れば良いと思ってたし、ないなら今から狩ればいい」
「おー、いいねぇ! なら、どっちが良い獲物を狩れるか勝負しようぜ!」
急にノリノリになり、そんな提案をしてきたエイル。
隣には林のような場所があるため、すぐに食材を調達することはできる。
明日に備えて俺がサッと食材を調達し、飯を食って寝るのが得策なのは分かっているが……。
エイルの提案は面白そうだし、決して仕事ではない今回の遠征ではアリ。
「しっかりとしたルールを設けるなら別に構わないぞ」
「いいねぇ! 流石はジェイドだ! 誰も俺とは勝負したがらないから、乗ってくれるのは本当新鮮だぜ!」
「俺の方が有利だと思っているしな。それでルールはエイルが決めるか?」
「いや、ジェイドが決めていいぞ! 俺はどんなルールでも構わねぇ!」
「なら……まず制限時間は一時間。獲物の良し悪しについては味が最優先。量も大事だが二の次だな。調理まで含むかどうかはどうする?」
「調理なんかできないし、そこは互いになしで行こうぜ! 味付けは塩コショウのみで、焼くか煮るの簡単な調理だけ!」
「分かった。簡単な調理のみで、どっちが美味い食材を見つけられるかの勝負で決まりだな。一時間以内に戻っていなければ、その時点で負けが確定するから」
ルールを決めたことでより面白くなってきた。
勝負形式にすれば、惰性で狩りを行うことがないしな。
「了解! 負けた方はどうする? 何か罰を受けることにするか?」
「負けた方は帰りの荷物持ちでいいだろ。メタルトータスを狩ればその素材を持って帰ることになるし、鉱石も恐らく採取することになるだろうからな」
「それいいね! 負けた方は帰りの荷物持ちな! それじゃ――スタートだ!」
掛け声と共に飛び上がると、そのまま林の中へと入って行ったエイル。
暗くて目は使えないだろうが、エイルは獣並みに鋭いため獲物を見つけることができる。
目が利くからといって油断していたら負ける可能性があるし、何なら嗅覚が異常に鋭いエイルは俺以上に上質な獲物を狩ることができるポテンシャルがある。
荷物持ちは構わないが負けることが嫌なため、全力で勝ちに行くとしよう。
俺もエイルを追いかけるように、隣にある林の中に入った。
比較的旨い獣と言えばイノシシだが、ただのイノシシならエイルも狩ることができる。
俺が今回狙うのは、グランボアという魔物。
イノシシを三倍ほどの大きさにしたような魔物で、似たような魔物にワイルドボアがいるのだが、グランボアには赤い鬣がある。
気性が荒い上にパワー、スピード共にワイルドボアとは比べものにならないほど強く、“赤い悪魔”とも呼ばれているほど忌避されている魔物。
そんな強さを持っている故に天敵が少なく、更にはグルメな性格なためその肉は極上そのもの。
俺も一度しか食べたことがないが、最高に美味かった思い出がある。
この林にいるかどうかが問題だが、その強さから気配を察知するのが容易いのは大きい。
強いといってもディープロッソ以下なため、苦戦を強いられることはなく非常に狙い目な魔物。
制限時間が一時間なのが引っかかるが、以前食べて美味だった魔物であるライドンコンドルもグランボアと共に狙えば、恐らくどちらかは見つけることができる。
狙う魔物を定めた俺は、索敵しながら高速で林の中を突き進んだ。
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