第50話 スタナとの食事


 スタナとの待ち合わせ場所である、大通り前へとやってきた。

 かなりの人で混み合っているが、すぐにスタナの姿を見つけることができた。


 見慣れているいつもの白衣姿ではなく、初めて見る私服姿。

 灰色のバレルパンツに黒のティーシャツ、クリーム色のジャケットを羽織ったまさに周囲の目を引くお洒落な綺麗な女性。


 あまり意識しないようにはしていたが、レスリーやらダンが露骨に態度に出すくらいには抜けて美人だし、人を殺すことと配達が速いこと以外は何の取柄もない俺なんかと食事に行くなんて、そもそも迷惑なのではないだろうか。

 思わず消極的な思考が頭を過る。


 今着ている服も露店市で買った安くてダサい古着。

 何か急に恥ずかしくなってきたが、ドタキャンなんてのは以ての外なため一度深呼吸をしてから話しかけた。


「スタナ、待たせてしまったか?」

「あっ、ジェイドさん。全然待っていませんので大丈夫ですよ!」

「それなら良かった。今日はわざわざ夜ご飯に付き合わせて悪かったな」

「悪いだなんて言わないでください! ジェイドさんに誘って貰えて嬉しかったです。逆にこんな私を誘ってくださりありがとうございます」


 茶化すように満面の笑みでそう言ったスタナ。

 美人で性格もよくて、おまけに治療師。


 武器屋を紹介してもらったことを伝えた時に、レスリーが嫉妬に狂っていた理由が今は分かった気がする。

 とにかく今回の食事については、レスリーにバレないようにだけ気をつけなくてはいけないな。


「気遣いの言葉をありがとう。それじゃ早速、店に向かうとしようか」

「そうですね! 私が行きたいお店でいいんでしたよね?」

「ああ、もちろんだ。今日は金もあるし、好きな店に行ってくれて構わない」

「分かりました。それではお店まで案内しますね!」


 スタナと横並びで歩きながら商業通りを進むこと約十分。

 会話も弾み出したところだったのだが、どうやらスタナが行きたいお店に着いたようだ。


「ここです。『パステルサミラ』ってお店で、個室で料理の質も高い良いお店なんですよ!」

「てっきり『ランファンパレス』に行くのかと思っていたけど、別の店なんだな」

「私も『ランファンパレス』のつもりだったんですけど、ジェイドさんが行ったと仰ってましたので別のお店を紹介しようとここにしたんです」

「そうだったのか。急に変更させたみたいでなんか悪いな」

「いえいえ! こっちのお店も同じくらい美味しいので、ぜひジェイドさんにも食べてもらいたいんです! さぁ、中に入りましょう」


 流石にヨークウィッチに長く住んでいるだけあり、色々な店を知っているな。

 『ランファンパレス』は今までの人生の中でも、頭抜けて美味しい料理を提供してくれる店だったのが、今回の店もそれと同等。


 期待が高くなり、思わずお腹がぐぅーと情けない音を鳴る。

 どんな料理が食べられるのか、非常に楽しみで仕方がない。


 俺はスタナの後について、店の中へと入った。

 店内は賑わいを見せているが、客層が良いのか落ち着いている雰囲気の良い店。


 様々な香辛料の香りが鼻を衝き、更にお腹が大きく鳴る。

 スタナは知り合いであろう店員と何やら会話をしてから、個室の席へと案内された。


「ご注文がお決まりになりましたらお声掛けください」


 軽く頭を下げてから、そう言って部屋から離れていった店員。

 『ランファンパレス』は俺一人でも入りやすかったが、ここは一人で来るには少し敷居が高い感じがする。

 こうしてスタナに連れてきてもらって良かった。


「それではジェイドさん。何の料理にしますか?」

「スタナのおすすめは何なんだ? どうせなら通っているスタナがおすすめの料理が食べたい」

「私のおすすめはフォレストオックスのすじ煮込みです! これが本当に美味しいんですよ!」

「なら俺もそれが食べたい。その他は俺が決めてもいいか?」

「はい! どの料理も美味しいので失敗はないはずです」


 二人分のフォレストオックスのすじ煮込みは頼むとして、他にも数品注文したい。

 店内に香辛料の香りが漂っていたし、スパイスアイスやスパイスウィスキーなんてもの気になってしまう。

 流石に酒は避けるとして、スパイスアイスは食後に頼むとしようか。


「決めた。魔食い貝のアヒージョと、イッカクウオのタンドリーも注文しよう」

「いいですね! どちらも注文したことのない料理なので楽しみです。早速店員さんを呼びましょう」


 それから店員の注文を伝え、料理が来るまでの待ち時間を迎える。

 一人で店で料理を食べる時は常にソワソワしているのだが、流石にスタナがいる前では大人しくしていよう。


「お店の感じ的にはどうでしょうか? 気に入って頂けましたか?」

「めちゃくちゃ良いと思う。店の雰囲気から客層まで全て良い。後は料理が美味しければ最高だな」

「そこは安心して頂いて構いません! 少なくとも、フォレストオックスのすじ煮込みは抜群に美味しいので!」


 そこまでお墨付きなら心配はいらない。

 ダンの武器屋も良かったし、『ランファンパレス』も素晴らしかった。

 今のところスタナから勧められた店にハズレがない。


「スタナがそこまで言うのであれば、何の心配もないな。それと一つ気になったんだが、この店は魔物の料理を扱っている店なのか?」

「そうなんですよ。料理長さんが元冒険者だったらしく、その時の経験や知識を料理に落とし込んでいるらしいです!」

「魔物は取り扱いが難しく、高級店でしか食べられないと聞いたことがある。値段もリーズナブルだったし、この値段で味わえるのは嬉しいな」


 クロに森へ放置された時は、生き残るために魔物も食らったことはあるが、食に適した魔物ではなかったことに加えて、味付けを何も施せなかったから不味いというイメージしかない。

 一部の魔物は動物なんかよりも数倍美味しいと聞くし、魔物を頂くことのできる店を紹介してもらったのは良かった。

 それから料理が届くまでの間、俺とスタナは互いのことについてを話しながら待ったのだった。

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