第287話 帝城
ゼノビアとの模擬戦から三日が経過した。
この三日間は昼までゼノビアの指導、午後は見回りというていで甲冑とグレートヘルムを着込んで帝都の街を歩き回っていた。
街に変わった点がないのか注意しながら歩いていたのだが、気になったのは街の東側。
クロが俺の存在に気付いたのか分からないが、日を追うごとにチンピラのような人間たちの動きが活発になってきている気がしている。
ちなみにこの間情報を聞き出したアランに関しては、今のところは俺に関しての情報を漏らしておらず、毎日近況報告をしてくれている。
アランの近況報告によれば、上からの指示で『モノトーン』内に見慣れない顔の人間がいないかを徹底的に探しているらしく、それで動きが激しくなっていると言っていた。
俺の存在に気づいたものの、どこに潜伏しているかは分からないと言ったところだろうか。
……いや、足をつくようなことはまだしていないため、まだクロも確証は持てていないはず。
ただ、もし帝都に入ったことがバレていたとしても、まず俺を見つけることはほぼ不可能。
俺自身も帝国騎士として潜り込むなんて考えもしていなかったし、一長一短でなることができる職でもない。
『モノトーン』の新人として入り込む方が簡単な訳で、もし兵士長と仲良くなってなければその択を選んでいた。
改めて、アルフィとセルジと兵士長。それから引き入れてくれたゼノビアには感謝だな。
……とまぁ、直近の動向としてはこんなものであり、動かずにいたことからも大きな進展はない。
ただ、今日から大きく動いていくつもりであり、まずは帝城を調べるつもりでいる。
それでクロに出会うことができれば、ヨークウィッチを離れてまで帝都にやってきた目的は達成する。
出会えずとも、クロの居場所か帝城の詳しい内部情報を調べたい。
肝心の潜入方法だが、街を歩き回っているように帝国騎士に扮して入り込むのも良さそうだし、いつものスタイルで隠密行動で中に入るのもあり。
一番はゼノビアに付き合ってもらい、帝城を案内してもらうのが勘付かれない方法だと思うのだが……流石に巻き込むことはできないからな。
どちらにするか迷った挙句、いつものスタイルで忍び込むことに決めた。
帝国騎士に扮していなければ、見つかったとしても帝国騎士として身を隠していることはまずバレない。
そして一番の理由だが、甲冑とグレートヘルムを着た状態で動きたくないというのが本当に大きい。
仮にクロと鉢合わせた場合、まず甲冑を脱ぐところから始めないといけないからな。
諸々の理由を加味して、俺は慣れた軽装備で夜の帝都へと繰り出した。
夜の闇に紛れながら、屋根上を駆けて帝城を目指して一気に進んで行く。
ヨークウィッチも夜でも割りと賑やかだが、帝都はやはり別格で賑わっている。
灯りがガンガンに照らされており、商業通りは昼と遜色ないくらい人で溢れ返っていた。
この状況は俺にとっては非常においしく、光が濃ければ濃いほど闇は深く暗くなる。
明かりの照らされていない屋根上なんて気にする人間は一人おらず、俺は賑やかな街を見下ろしながら進み、ここまで誰にも気づかれることなく帝城まで辿り着くことができた。
見上げると首が痛くなるほど大きく、正に帝国を象徴するような立派な城。
長年帝都で暗殺を行ってきたが、帝城には一度も行ったことがない。
帝城に住んでいる人間の暗殺を行ったことも一度だけあるのだが、外で殺すようクロの指示があったからだ。
その時は処理が面倒くさいからだと勝手に考えていたが、今思えば俺を帝城に入れたくなかったのだろう。
当時はまだブレナン・ジトーとしての力もそこまでだったのに、いずれ帝城に住むと踏んでリスク管理を徹底していたはお手の物だと思わず感心してしまう。
そんなクロのことだし、色々と罠が張り巡らされていそうだな。
入口にも常に見張りが立っているし、夜にも関わらず帝城の周りをぐるぐると回っている騎士もいる。
更に二人一組で動いていて、隙を作らせないようにしているのが分かる。
ただ、俺にかかれば苦労せずに侵入することは可能。
これだけ大きな帝城を完全に防ぐというのは無理な話であり、『バリオアンスロ』のアジトよりも何倍も楽。
見張りの動きを見極めながら、目星をつけた二階の窓に向かおうとしたその時――踏み出そうとした俺の足が完全に止まった。
なんとなくだが、謎の違和感に襲われたのだ。
言葉では説明できないくらいの些細な違和感なのだが、長年暗殺者としてやってきた俺の勘が止まれと言っている。
一度大きく深呼吸をし、侵入ルートをもう一度考えてみることにした。
この帝城付近を確認した限りでは、確実に目星をつけた二階の窓からの侵入が最適。
だが、無理やり他のルートを探るとしたら……正面から侵入するのがいいのか。
隙が無いような配置で見張りがされているが故に、正面からの侵入するのも他の場所と難しさは変わらない。
なら、堂々と正面突破がいいと考えた俺は、二階からのルートを止めて正面突破を目指すことに決めた。
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