第3章

閑話 騒動の裏


 街の外は非常に騒々しく、何かしらの非常事態が起こっていることは見ずとも分かる。

 何が起こっているのか気になるところではあるが、俺は待ちに待っていたこの機を逃すべく行動に移った。


 黒いローブに身を包み、大量の人混みに紛れて移動を開始。

 向かう先は闇市にある新たなアジト。


 毎日のように俺を見張りにきていた奴らも今日はおらず、ようやく自由に移動ができている。

 街の混乱を他所に、富豪エリアから街の西の闇市までやってきた俺の前に、五人のガラの悪そうな男が現れた。


「あんたがレッド・ケリーですかい? 迎えにきやしたぜ」

「……お前らは?」

「俺らは新しく『都影』の一員になった――」


 そこまで聞いたところで、俺は懐から取り出した魔道具で間髪入れずに男の頭を打ち抜いた。

 頭を打ち抜いた男が即死すると、先ほどまで半笑いを浮かべていた周囲の男たちの表情が一気に強張る。


「舐めた態度を取ったらすぐに殺すからな。『都影』に入ったのなら俺の指示には絶対服従だ。……返事は?」

「は、はい!」


 今は一人でも人材が惜しいのだが、舐めた態度を一発で矯正させるのにはこれが手っ取り早い。

 新人に対しては、強烈な鞭と適度な飴で縛り上げていく。


「早くアジトまで案内しろ」

「わ、分かりました」


 死体を見下ろしながら体を震わせている四人の男に案内させ、新たに作った『都影』のアジトへと向かう。

 こいつらが出迎えに来たということは既にアジトはほぼ完成しており、迎えの指示を出した誰かがいるということ。


 この混乱に乗じて俺が動くということも気づいていたようだし、頭は普通にキレる人物。

 最初はヴァンダムかとも思ったが、あのイカれ脳筋に他人に細かな指示を出すような真似はできない。


 色々と考えてみたが結局その人物が思い浮かばないまま、アジトに辿り着いてしまった。

 古びた建物ばかりの闇市に、大きく立派な建物が建てられていた。


 少し前まで廃屋だった場所を買い取り、金をつぎ込んで新しく建設したアジト。

 このアジトを建設した一番の目的は、注意を一点に向けさせること。

 『都影』の力を誇示する意味もあるが、『ハートショット』の製造部屋のあるバーから注意を逸らすことのため、ド派手な外装で嫌でも目につくようなものを建てた。


 『都影』を狙っている奴らの的にはなりやすくなるが――それは覚悟の上。

 先導する四人の後を追い、新しいアジトの中へと入る。


 中は募集をかけた『都影』の新構成員でいっぱいになっており、さっき殺した男と同様に舐め腐った態度を見せている。

 大半がチンピラか冒険者崩れ、残りは金を求めてやってきた貧困層。

 一から兵士として鍛え上げるのは大変そうだが、アヴァンの二の前にならないためにも兜の緒を締める。

 

「おい、挨拶させろ。殺されたくないならな」

「は、はい! ――てめぇら! 全員集まれッ! こちらにいるのは『都影』の幹部のレッド・ケリー様だ。挨拶しろ!」


 男の内の一人が大声を張り上げ、アジトにたむろっていた構成員に声をかけたが、ざわつくだけで疎らな挨拶しか聞こえない。

 ……少々もったいないが、もう一人撃ち殺すしかなさそうだな。


 俺は懐から先ほどの魔道具を取り出し、一番活きの良い人間に狙いを定めて撃ったのだが――。

 土属性の弾丸は男の脳天に届く前に、一人の男によって止められた。


「簡単に殺すのは止めましょう。こんなのでも貴重な人材ですので」

「……お前は誰だ?」

「申し遅れました。私はジーンの代わりにやってきました『ブラッズカルト』のメンバーの一人、アバルトと申します」

「『ブラッズカルト』のメンバーだったのか。道理で出来る人間だと思った」

「“人間”だなんて……これは嬉しいお言葉ありがとうございます。そして、ジーンの件は大変申し訳ございませんでした」

「新たに人材を送ってくれたなら別に構わない。――ただ、もう二度と失敗しないでくれよ」

「ええ。『ブラッズカルト』の名にかけまして、もう二度と失敗は致しません。まずはこの烏合の衆をまとめることからやらせていただきます」


 そう言ったアバルトの目は怪しく赤く光り、ギリギリで殺さない絶妙な痛ぶりが開始された。

 アバルトの他にも同じくらいできそうな人間の姿も三人確認できるため、ジーンに護衛任務を失敗されたのは痛かったが……。


 結果的に『ブラッズカルト』の全面的な協力を得られたことを考えると、俺はツイていたのかもしれない。

 いち早く構成員たちを掌握し、ヴァンダムが街に来る前に動ける準備を整えなくてはな。


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