第75話 報告


 魔人相手だしもう少し苦戦するかと思ったけど、予想以上に楽に倒せてしまったな。

 複雑な攻撃を警戒していたが、シンプルに肉弾戦を挑んできたのが俺としては幸いした。


 策を使わずに終わってしまったし、魔法もいつでも使える準備も整えていたのだが全て杞憂に終わってしまった。

 多分だが、トラームはもっと何かしらの能力を持っていたのだとは思うが……それらを使わせる前に殺してしまったのだと思う。


 勇者も微妙だったが、魔人も微妙だった。

 戦闘を楽しみたいならば、泳がせて全力を引き出させるのが正解なのだろうが、流石にそんな馬鹿な真似はしない。


 心臓を突いた剣でそのまま首を斬り落とし、これでトラームの首も刈り取れた。

 先頭内容はどうあれ手土産が二つになったし、マイケルも少しは喜んでくれるだろう。


 トラームに殺されたであろう冒険者たちに手を合わせてから、剣を屈強な冒険者の鞘へと戻し、トラームの首とゴブリンキングの首を持って、ヨークウィッチへと戻るとしよう。

 ゴブリンキングの首を拾い上げてから西の森を引き返している道中、先ほどの泉の付近からゴブリン達の喚き声が聞こえて来た。


 火事と煙騒ぎになっている間に殺されたゴブリンキングに気づき、必死になって俺を探しているのが分かる。

 ゴブリンの言葉は理解できないが、森のあちらこちらから報告するような声を聞こえているからまず間違いない。


 ただどれだけ血眼になって地上を探そうとも、俺は木の上を移動しているため見つかることはないだろう。

 二つの生首を持っているから動きにくいのが難点だが、毎日のように配達を行っているため慣れたもの。


 そして、気配を消してゴブリン達の頭上を移動すること約一時間。

 俺は一度も接敵することなく、西の森の入口へと戻ってくることができた。


 魔物は専門外だと勝手に思っていたが、人型の魔物ならば余裕で通用するし、何なら人間よりも警戒が薄くてやりやすいまである。

 新作の煙玉の試し撃ちもできたし、個人的にも中々の収穫だったな。

 ひとまず二つの生首は森の入口付近に隠しておき、手ぶらでヨークウィッチに戻るとしよう。


 西の森を抜けた時には時間帯が完全に朝となっており、西の森からヨークウィッチまでの道中では冒険者とゴブリン達が戦闘を行っていた。

 俺がゴブリンキングと魔人を倒している間に、集めた冒険者達で討って出たのだろう。


 西の森から抜け出ているのは弱いゴブリンだし、特に苦戦している様子もないから無視して一直線でヨークウィッチへと戻ってきた。

 出る時に利用した兵士専用の門を潜って街の中へと入り、屋根伝いで一気に冒険者ギルドを目指す。

 そして先ほど穴をあけた応接室の窓から侵入し、応接室の扉を内側からノックをすることでマイケルを呼び出した。


「――んおっ! もう戻ってきたのかね! 凄い血だが……それは全部返り血か?」

「ああ、ゴブリンの返り血だ。俺の傷は一つもない」

「それは良かったよ。そ、それで西の森の様子はどうだったのだ?」


 たぷたぷな体を揺らしながら、急いで応接室へと戻って来たマイケルは額から流れる汗を拭いながらそう聞いてきた。


「ゴブリンキングらしきゴブリンは狩ってきた」

「んほへっ! そ、それは本当かね!? 君が出発してから、まだ二時間も経っていないのだぞ?」

「本当にゴブリンキングかどうかは分からないが、無駄な嘘はつかない。それと、西の森の奥に魔人を見つけた」

「ま、魔人だとっ!! ジェイド! う、う、嘘じゃねぇだろうな!!!」


 今度はキレ気味で、何故か胸倉を掴む勢いで顔を寄せてきた。

 口調がいつものマイケルとは違うが、恐らくこっちが素の喋り方なのだろう。


「さっきも言ったが無駄な嘘はつかない」

「…………これはまじぃな。すぐにギルド長に報告して、高ランク冒険者を集めて討伐隊を組まねぇと駄目だ!!」


 一人でブツブツと喋り、部屋から立ち去ろうとするマイケルの肩をグッと掴む。

 焦るのも分かるが、最後まで話を聞いてもらいたいところだな。


「おいっ、今は一分一秒も無駄にできねぇんだよ! 助かったが礼はまた改め――」

「魔人もついでに狩ってきた。討伐隊も別にいらないぞ」

「………………………………………………………………は?」


 ぽかんと口を開けてから、酷く長い沈黙の後にマイケルは一言そう発した。


「だから、魔人もついでに殺してきた」

「……そんなバカな話があるかっ! ゴブリンキングの討伐に向かって、二時間も経たずにゴブリンキングと――つ、ついでに魔人を倒してきただと? お前の強さはこの目で見たから実力があるのは知っているが、そんな馬鹿げた芸当ができるはずない!」

「できるはずがないと言われても、実際にやったからな。首も落として持って帰ってきたぞ」

「……本当に魔人を一人で倒したのか?」

「何度も言っているだろ。西の森の地図を広げてくれ」


 俺はマイケルにそう指示を出し、先ほどの地図を床に広げてもらった。


「この辺りにゴブリンキングと魔人の首が落ちている。実際に疑うなら見てきたらいい」

「わ、分かった。後で確認に行かせてもらう。……声を荒げてすまなかったね」

「別に構わない。それと一つ言っておくが、俺のことは黙っていてくれ。ゴブリンキングも魔人もマイケルが倒したことにしてくれて構わない」

「それで本当にいいのかね? この二つ事実が知れ渡れば、街の英雄になれるのだぞ?」

「俺は静かに暮らしたいからな。街の英雄と褒め称えられるよりも、誰からも指をさされることなく普通に暮らしたい」

「そういうことなら……遠慮なく冒険者ギルドの手柄にさせてもらう。本当に感謝する」

「ああ。ただ、マイケルへの貸しは二つ分とさせてもらうぞ」

「何を要求されるかが少し怖いが……。貸し二つでこれだけの偉業を成してくれたのであれば安いものだね」


 それから軽く何があったのかを話してから、俺は新しい革の防具をマイケルから譲ってもらい、それに着替えてから冒険者ギルドを後にした。

 詳しい話は騒動が収まってから聞きたいらしく、次の俺の休日に『ランファンパレス』で話をすることになった。


 休日を割いてまでマイケルと話をするのは正直嫌だが、『ランファンパレス』の料理を奢ってくれるのであればまぁアリだな。

 この騒ぎを冒険者ギルドが収束させてくれるのを期待しつつ、俺は『シャ・ノワール』へと戻ったのだった。




==========


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました!

第75話 報告 にて第二章が終わりました。


そして、皆様に作者からお願いです。

現時点でかまいませんので、少しでもおもしろい、続きが気になる!


――そう思って頂けましたら!

ブックマ-クと、画面下の評価欄から☆☆☆をいただけると嬉しいです!!

つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!


三章以降も、頑張って執筆していこうというモチベ向上につながります!!

お手数お掛け致しますが、よろしくお願い致します<(_ _)>ペコ

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