第314話 消える二人
平原に辿り着いた俺達は、早速向き合って構えた。
二人共に気合いは十分のようで、トレバーは腕をブンブンと回しており、テイトは体のバランスを整えるように小刻みなジャンプを繰り返している。
「早速だが始めるか?」
「はい! いつでも準備できてます!」
「私もいつでも大丈夫です。お手柔らかにお願いします」
ギラギラとした目を向けてきた二人に俺は笑いかけ、木剣を手に取り剣先を向けた。
「それじゃ始めるぞ。――開始!」
俺が模擬戦の開始を宣言すると同時に、二人は一気に攻撃を仕掛けてきた。
いつものようにテイトが前衛——かと思っていたのだが、まず斬りかかってきたのはトレバーの方だった。
この短い期間で新しい陣形を覚えてきたようだが、俺は出立前に見せてくれたトレバーの新しい戦い方に磨きをかけてきたと思っていただけに……少しだけ残念な気持ちになる。
気配の薄さを利用した攻撃が最大の武器であると伝えたはずであり、前衛で攻撃を仕掛けてしまったら影の薄さは無意味となるからな。
「トレバーが前でいいのか?」
「大丈夫です! ――いきますよ!」
そんな返事と共に、力強く踏み込んだトレバー。
そして、次の瞬間には潜り込むように懐へと入ってきた。
動きは前回の模擬戦の時とは比べ物にならない速度。
成長はこの踏み込みだけで分かったが、それでも前回の不意の一撃の方が怖かった。
懐に踏み込んできたトレバーに対し、ステップバックで対応しつつ――渾身の袈裟斬りを難なく受け止めた。
一撃の重さも申し分なく、出会った頃と比べたら威力は雲泥の差。
……が、俺に一撃を与えるには十年は早いな。
トレバーの鍛え上げられた一撃を受け、そんな感想を抱きながら反撃の袈裟斬りを放った――次の瞬間。
俺の返しの袈裟斬りに合わせ、右側の死角から短剣が俺の脚部目掛けて振られた。
僅かに敵意を向けられたのが分かったから避けることができたが、あのまま袈裟斬りを行っていたら完全に攻撃を受けてしまうところだった。
俺は逃げるように慌てて二人から距離を取り、死角から攻撃を仕掛けてきたテイトに視線を向ける。
「くぅー! 今のは絶対に惜しかった! あとちょっとで攻撃を当てられてたよ!」
「トレバー、ごめん。今のは千載一遇のチャンスだった」
「大丈夫、大丈夫! ジェイドさんが仕組みに気づいていない限り、まだまだチャンスはあるはずだから!」
「……うん。次は確実に当てる」
本気で悔しがりながらも、そんな会話を行っている二人。
確かに……存在感のあるテイトが、どうやって俺の死角に入り込んだのか一切分かっていない。
トレバーの動きを見習い、自身の影を薄くする方法をマスターしたのか?
そうだとしたら強力すぎる技術を身に着けたことになるが、トレバーの影の薄さは天性のものであり後天的に見に着けられるものではないはず。
……駄目だ。なんでテイトを見失ったのか皆目見当もつかない。
俺の思考が纏まらない中、またしてもトレバーが前を進んで攻撃を仕掛けてきた。
トレバーの攻撃を受けずに速攻で仕留めてしまえば簡単ではあるのだが、それでは何の意味もないしな。
仮にも二人に指導をする立場であれば、二人のタメにならない倒し方はするべきではない。
二人の攻撃を真っ向から受け止め、その上で勝つのが指導する人間としての在り方。
これで一撃を食らわされたとしても、それは二人が成長したという何よりの証。
……ただ、そう簡単に一撃を浴びせられるつもりもないけどな。
俺はこれまで以上に集中し、気配の消えたテイトを意識しながらトレバーの攻撃を受けにかかる。
先ほどと同じように強烈な踏み込み、それから素早く懐に潜り込んできた。
テイトはトレバーの背中に隠れており、俺の視界に入らないように徹底している。
いつ飛び出しても対処する――俺の意識はテイトに持っていかれ、その瞬間を狙ったかのうように二人は前後衛をスイッチ。
意識し過ぎていたテイトが前衛に来たことで、今度はトレバーが俺の視界から消えた。
テイトはトレバーを見失った俺の僅かな焦りを見逃さず、低い姿勢から連撃を仕掛けてきた。
俺の意識は下へと持っていかれ、そのタイミングで――真横から脇下部分に振られた木剣。
木剣が視界に入った瞬間に避けてはみたものの躱し切ることができず、ダメージはほぼなかったが木剣が体に触れてしまった。
ちらりと視線を向けるとトレバーがニヤけ面で攻撃を行ってきており、完璧に一撃を食らってしまった。
簡単に一撃を浴びるつもりはないと心の中で決めた傍から、簡単に一撃を貰ってしまったな。
少し情けない気持ちになるが、一撃を食らったことで今回やられた仕組みについて理解できた。
トレバーをあえて前衛に出し、強烈な影の薄さからの不意打ちを知っている俺の意識を無理やりトレバーに集めた。
更に成長した一撃をトレバーが放ったことで、トレバーに意識を集中させるあまりテイトが俺の意識から外れてしまったという流れ。
戦闘で使えるほどのトレバーの影の薄さを俺が知っているからこそ、それを逆手にとって二人は利用してきたのだ。
そして、テイトが不意を突いたことで俺が混乱したところを突き、今度は正当にトレバーの影の薄さを使ってきた。
前回とは違って声を出さず、強い一撃ではなくて攻撃を確実に当てに来た徹底ぶり。
練りに練られた攻撃だったことが分かり、悔しさよりも嬉しさが込み上がってくるが……この喜びを噛み絞めるのは二人を蹴散らした後。
理屈が完璧に分かった以上、徹底的に対策をして――二人をこてんぱんにやっつけるとしよう。
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