第313話 大袈裟


 気配を探りながら、まずは二人の居場所を探す。

 短期間ではあるが、どう成長しているのか非常に楽しみ。


 一番伸びやすい時期でもあるし、本当かどうか分からないが全力で鍛えると約束してくれていたからな。 

 ワクワクしながら二人を探していると……ピンク通りの方向から二人の気配を感じ取った。


 住んでいるところは以前と変わりないらしい。

 治安は悪いが、闇市のある西側と比べたら何倍もマシ。


 テイトと妹のケイトは闇市の廃屋に住んでいた訳だし、それを考えたらピンク通りの方が何十倍も安心安全だろう。

 色気づいた酔っ払いに絡まれるのは心配だが、今のテイトは酔っ払いなんかに負けないからな。


 そんなことを考えながらピンク通りへとやってきた俺は、気配を頼りに二人の下へと向かう。

 気配があるのはピンク通りにある定食屋のようで、中を覗いてみると二人は朝食を食べていた。


 当たり前だが見た目はあまり変わっていない。

 若干トレバーの服装がカッコよくなったか?


「トレバー、テイト。久しぶりだな」


 何か会話をしながらご飯を食べていた二人にそう声を掛けると、第一声だけで俺に気付いたようで、トレバーは椅子から転げ落ちた。

 俺の顔を指さしながら口をパクパクとさせている中、テイトの方は比較的冷静に声を掛けてきた。


「ジェイドさん! お久しぶりです! 戻ってきていたんですね!」

「ああ。昨日、ヨークウィッチに戻ってきたんだ。二人共、元気にしていたか?」

「ええ。相変わらず元気にやっていますよ! ……ほら、トレバーも何か言いなよ」


 テイトにそう諭されたトレバーだったが、未だに床に腰を付けたまま動けていない。

 レスリーもヴェラもエイルも大袈裟だったが、トレバーが一番大袈裟かもしれない。


「……いや、本当になんで倒れたままなんだ?」

「ほ、本当にジェイドさんなんですか? ……こんな急に現れるとは思っていなくて驚いてしまったんです!!」

「俺なんかの偽物なんていないだろ。トレバーも元気にやっていたか?」

「はい! 僕は元気すぎるくらい元気にやってました! ジェイドさんも怪我とか病気にはなっていないですか?」

「ああ。俺も元気やっていたぞ」


 ようやく口を開いたところで、立ち上がったトレバー。

 握手を求めてこようとしてきたが、流石に定食屋の中で目立つ行動は取りたくない。

 まぁ椅子から倒れたり、倒れたまま固まったりと、既に目立つ行動はトレバーが取ってはいるんだけどな。

 

「握手は後でいいだろ。とりあえず落ち着いて話そう。他の人に迷惑がかかってしまう」

「た、確かにそうですね! すみませんでした!」


 トレバーはようやく冷静になれたようで、周囲にいたお客さんに頭を下げてから椅子に座り直した。

 俺も一緒の席に着かせてもらい、とりあえず朝食として日替わり定食を頼んでから改めて話を始める。


「それで……ジェイドさんはもうずっとヨークウィッチにいるんでしょうか?」

「ああ、もう用は済んだからな。……いや、ずっとかどうかは分からないが、とりあえずヨークウィッチを拠点にする」

「やったー! 本当に良かった!」

「また私達の指導をお願いしてもいいですか? もちろんお時間がある時で大丈夫ですので」

「もちろん。二人が大丈夫と言うまでは指導させてもらう。俺が街を離れていた期間にどれだけ強くなったのかも気になるし、時間がある時に見させてもらうつもりだ」

「今すぐは駄目ですか!? 僕はすぐにでもジェイドさんに見てもらいたいです! 短期間ではありますが本気で頑張ったので!」


 トレバーは両の手を強く握り絞めながら、また立ち上がった。

 あまり目立った行動を取るなと言ったばかりなのだが、それだけ本気で鍛えたのだろう。


「また見られているから一度落ち着け。……二人はこれから依頼を受けに行くつもりじゃなかったのか? 予定があったならそっちを優先してくれ。さっきも言った通り、俺は基本的に街にいるしな」

「そうでしたけど、ジェイドさんに見てもらうのが一番大事です! これはテイトも同じ考えだよね?」

「ですね。ジェイドさんのお陰でお金には大分余裕が生まれていますし、依頼は一日ぐらい受けなくても余裕ですから! これから私達に付き合ってもらえますか? ジェイドさんに予定がなければで大丈夫ですので」


 スタナとの予定は仕事が終わった後とのことだったし、これから結構な時間が暇。

 トレバーとテイトに顔を見せたら『シャ・ノワール』に行こうとしていたぐらいだし、俺の方はもちろん大丈夫だ。


「俺は時間があるぞ。二人が大丈夫ならもちろん付き合う」

「やったー! なら、すぐにご飯を食べていつもの平原へ行きましょう! 僕達が強くなったところを見てもらいます!」


 そう言うと、目の前にあったご飯を一気に掻き込み始めた。

 凄まじい食いっぷりだが、俺が頼んだ定食がまだ届いていないため、トレバーが早く食べたところですぐに平原へは行けない。


「そんなに早く食べなくていい。俺が頼んだのはまだ届いてもないからな」

「――あっ、ほうれした! じゃあ、ゆっふりたへますれ!」

「……何を言っているか分からん。トレバーってこんなにそそっかしかったか?」

「ふふ、それだけジェイドさんと会えて嬉しいんだと思います。もちろん私も嬉しいです」

「ありがとう。俺も二人の顔をまた見れて嬉しい」


 喉を詰まらせかけているトレバーを見ながら、ほっこりとした気持ちになる。

 それから店員が運んできた定食を二人と話しながら食べ、それからいつもの平原へと移動したのだった。



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