第312話 誤解


 エイルとマイケルのやり取りがようやく一段落着いた。

 完全に話が脱線していたし、話を戻すとしよう。


「二人のやり取りは聞いていて楽しかったが、そろそろ俺がいなかった間のことを聞いてもいいか? 『都影』とかの裏組織の動きは何かあったか?」

「いや、特に何もなかった! マイケルも報告を受けていないよな?」

「ええ、何も報告を受けていないですね。アジト等にも動きはありませんでしたし、本格的にヨークウィッチへの進出は諦めたのかもしれません」


 何の進展がなかったのは意外だな。

 『都影』はクロとは完全に別組織であることは確定したし、費やした費用や人材を考えたら、意地でもヨークウィッチを取りに来ると予想していた。


 それだけ大打撃を与えられていたということだろうか。

 平和なのが一番だし、今後も何の動きがないならありがたい限り。


「だとしたら大きいな。『都影』が諦めただけでも治安は劇的に良くなるだろ?」

「はい。闇市の動きもかなり緩くなっていると報告を受けているよ。違法ドラッグを使用した人の対応は依然として大変らしいですがね」

「とりあえず冒険者ギルドにやれることはやったって感じだな! また動きがあれば対応するって感じになってる!」

「なるほど。じゃあ本当に一件落着したんだな」

「君には本当に世話になったね。このお礼は何でもさせてもらうから、困ったことがあったら遠慮なく言ってほしい」

「今は特にないから……変わらず貸しってことにしておいてくれ」


 まぁエイルはともかくとして、マイケルには世話になっているから、この貸しも別に返してもらわなくてもいいんだけどな。

 俺の大好きなこの街の平和は、俺にとっても嬉しいことだし。

 ……まぁ何があるか分からないし、貸しってことにはしておくが。


「それよりもジェイドのことを聞かせろよ! 俺はずっと気になっていたんだぞ!」

「こうして無事に顔を見せていることから分かるだろうが、ちゃんと全てを終わらせてきた。俺を狙う人間はもういない」

「ただ者ではないことは知っていたが、君が何者なのか未だに掴めないね。一体誰に狙われていたのか。教えて貰うことはできるのかね?」


 二人はほとんど事情を知っているし……教えても構わないか?

 流石に帝国の執政官を殺してきたってのは言えないから、『クロ』であることを伝えよう。


「長年、帝国の裏組織を引っ張ってきた人間だ。クロという名前で動いていた人で、暗殺組織や『モノトーン』という名の裏組織を作った人物でもあった」

「うーん……聞いたことねぇな。マイケルは知ってんのか?」

「クロという人物に聞き覚えはありませんが、『モノトーン』は聞いたことがありますね。最近、力をつけてきた組織だったはずです」

「そう。その『モノトーン』だな。……ちなみにもう壊滅しているが」


 俺がそう伝えると、二人は口を開けて驚いた表情を見せた。

 話の流れ的に、俺が潰したと誤解させてしまったようだ。


「……俺が潰したんじゃないぞ? クロとやりあった中で『モノトーン』が勝手に潰れた」

「いやいや! 絶対にジェイドが潰しただろ! 分かってはいたけどやっぱとんでもねぇな!」

「絶対に敵にしてはいけない人物だね。この短期間で勢いのある裏の組織を潰してしまうとは……ますます君のことが分からなくなった気がする」

「いや、だから俺がやってきたのはクロとケリをつけたことだけだ」


 『バリオアンスロ』や『モノトーン』ともやりあってはいるが、実際に潰したのはクロだけだからな。

 そんな超人ではないのだが、二人の誤解は解けそうにない。


「この報告を聞いちまうと、本当に無駄な心配だったな!」

「ですね。【都影】を退け、ギルド長以上の力を持った凄い人物という認識でしたが……それだけでは過小評価だったことが分かりました」

「だから、本当に誤解なんだが……もういいか」


 これ以上の弁明は無駄だろう。

 事実として組織のトップであるクロを潰し、『モノトーン』は壊滅しているから誤解されたままでも間違いではない。

 過大評価されるのは困るが、二人が無駄に頼ってくることはないと分かっているから、誤解されていても比較的楽に構えられる。


「組織を壊滅させた時のこととか、もっと詳しく話を聞きてぇな!」

「ひとまずの報告は済んだから、詳しい話はまた今度だな。今日は他の人のところにも行って、街に戻ってきたことを報告しに行かないといけない」

「はぁー!? マジかよ! てことは、もう行っちまうのか?」

「ああ。今日は無事に戻ってきた報告だけのつもりだったし。また別のタイミングでゆっくり話そう。……前に約束していた探検にでも行ったタイミングでな」


 俺がそんな提案をすると、エイルは口を大きく開けて笑顔となり、体を身震いさせた。


「それいいなっ! また一緒に探検に行こうぜ! それも近いうちにだぞ!」

「ああ、もちろん。前の探検も楽しかったしな」

「……今度は私も参加してもいいかね? 話も気になるし、二人の戦闘も気になるからね」

「もちろん。次は三人で行——」

「駄目だ! マイケルは留守番! 俺とジェイドの二人だけで行く!」

「いやいや、それは酷いですよ! 除け者にしないでください」

「駄目だ! これは決定事項だ!」

「まぁどっちでもいいが、とにかく近いうちに探検に行こう。それじゃ――また」

「おう! すぐに連絡してくれよ!」


 元気良く手を振っているエイルと別れ、俺は冒険者ギルドを後にした。

 ちょろっと報告をしただけではあるが、エイルとマイケルの元気な姿を見られて良かった。


 探検も楽しみだし、また近い内に冒険者ギルドに来よう。

 そんなことを考えながら、俺はトレバーとテイトの下を目指して歩を進めた。


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