第101話 素材探し
腕を目一杯広げているヴェラの父親を説得するべく、まずは落ち着かせることにした。
この様子を見る限り、絶対に冷静じゃないからな。
「先に説明させてもらうが、俺とヴェラは何の関係でもないぞ。ただの同じ職場で一緒にアイテムを作っているだけの関係だ。年齢の差を見ても分かるだろ」
「………………そ、その話本当だろうな?」
「こんな嘘はつかない。俺はヴェラに一切の恋愛感情もないし、ヴェラも同じだ」
説得が響いたのか、目一杯に広げていた腕が徐々に垂れてきた。
これなら、あともう少し説得すれば通して貰えるだろう、そう思ったその時――。
「でも、ただ一緒に働いているだけの人がわざわざ部屋まで来る? 仕事をするって言っても職場でするでしょ?」
ヴェラの父親の後ろからそう声を掛けてきたのは、ヴェラによく似た顔立ちの良い男。
口調や声のトーンまで似ているため、ヴェラの兄だというのはすぐに分かった。
「た、確かにそうだ! わざわざ部屋に上がり込むのはおかしい!」
「俺は隠れてヴェラと付き合っているんだと思う」
「つ、付き合っている!? 親子ほど年が離れているだろ!」
「恋に年齢は関係ないと思うよ」
「付き合っていないぞ。ただの同僚だ。この背中のマットを運び入れたいだけで他意はない」
そう訂正したものの、垂れてきていた腕を再び目一杯に伸ばし、俺を通らせないように仁王立ちをした。
せっかく説得できそうだったのに、ヴェラ同様に余計なことしか言わない。
「ヴェラの兄だろ? 余計なことを吹き込むな」
「ごめん、ごめん。ちょっと親父の反応が面白くてさ。まぁ俺はもう行くから」
強めの口調でそう注意すると、ヴェラの兄は楽しそうな笑みを浮かべて部屋の奥へと消えて行った。
ヴェラより声音は明るいが、おちょくるような感じや笑顔の感じはヴェラそのもの。
家族全員面倒くさい性格をしており、ここまで来たがマットを渡さずに帰ろうか悩んでしまう。
「それで……ヴェラの父親は、そこを退くつもりはないのか?」
「ないぞ! ヴェラに変な虫がつかないようにするのが、父親としての役目だ!」
「……はぁー、分かった。なら、このマットをヴェラの部屋まで運んでくれ。俺が中に入らなければいいんだろ?」
「それなら、まぁいいが……このマットに変なものが入っているとかはないよな?」
「ない。早く運んでくれ。ちなみに色々と探ったらヴェラに嫌われるぞ。そのマットはヴェラの奴だからな」
「わ、分かっている!」
背負っていたマットを仁王立ちしていた父親に渡し、ヴェラの部屋まで運ぶのをしっかりと見守る。
色々と注意したお陰もあり、隅々まで調べるようなことをせずに部屋まで運んでくれた。
本当に大変だったが、とりあえずこれで大丈夫だろう。
「それじゃ俺は帰るぞ」
「ちょっと待て! 何度も家に来ているんだし、名前くらい名乗ったらどうなんだ?」
「俺はジェイドと言う。もう一度だけ言っておくが、ヴェラとはただの仕事仲間だ。変な心配はしなくていい」
「その言葉を信じていいんだな!」
「ああ」
「……なら信じさせてもらう! 俺の名前はエリックという! 次に来るときは歓迎させてもらうよ!」
「別に歓迎はしなくて大丈夫だ。仕事で来ているだけだから、そっとしておいてくれ」
ヴェラの父親のエリックにそう告げてから、俺はヴェラの家を後にした。
今回部屋に押し入らなかったことで、エリックにはなんとか分かって貰えたようだが……なんだか一気にドッと疲れた。
ヴェラの家族には二度と気を使わないと決め、俺は休日の続きを満喫することに決めた。
ヴェラの家を後にした俺は、体力回復の意味も兼ねて『パステルサミラ』で昼飯を食べてから、大通りへと戻ってきた。
休日の残った時間を使い、スタナへのプレゼントを探すことも考えたのだが……。
ヴェラのマットの件が頭を過り、やはりスタナには本人から何が欲しいのか聞いた方がいいと判断。
残りの時間は、魔道具に使用する素材探しを行うことに決めた。
今探しているのは安価で耐熱性が高く、加工もしやすい素材という条件が厳しいものだが、俺の中で一つだけ思いついている。
その素材が存在するのか分からないが、とにかく足で探していくしかない。
そして――探し始めてから四時間ほどが経過。
色々な店を探したが、結局お目当ての素材を見つけることができなかった。
西の森で見かけたし、流通していると勝手に思っていたが……考えが甘かったか。
こうなったら最後の手である、冒険者ギルドに行くしかない。
冒険者という人種に遭遇したくないため、ギリギリまでこの選択肢は取っておいたのだがこうなったら仕方がない。
背に腹は代えられないため、マイケルに会いに冒険者ギルドへと向かった。
日が落ち始め、暗くなってきたこともあってか、冒険者ギルドには大量の冒険者達が集まっている。
多数の冒険者からジロジロと嫌な視線を向けられ、非常に不快な気持ちになるな。
殺してもいいため、俺はゴブリンの方が冒険者という人種より好きかもしれない。
そんな恨み節を唱えながら見つからないように裏へと回り込み、俺は応接室の窓へと辿り着いた。
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