第24話 不愛想


 まずは最初に名前を聞いておけばいいのだろうか。

 レスリーが全てやると言っていた手前、その言葉を信じて何にも考えていなかったことを悔やむ。


「それじゃ、まずは名前と年齢から教えてもらってもいいか?」

「ヴェラ・ウルフハード。年齢は二十一歳」


 二十一歳。見た目から若いと思っていたが、予想していたよりも大分若いな。

 無表情で声にも一切の抑揚がないのは気になるけど、それは俺が言えた義理ではないから気にしない。


「名前はヴェラか。この店で働きたい理由とかってあったりするか?」

「特にない。親が勝手に応募したから、働けるならと思って来ただけ」

「なるほど。以前は何処かで働いていたりしたのか?」

「冒険者をやっていた。半年前にパーティを脱退してからは家に引き篭もってた」


 うーん……。何か色々と俺と似た怪しい匂いを感じるが、それでも即採用で良い気はしている。

 そんな感想を抱きながら、ここまでまだ一言も発していないレスリーをチラッと見ると、口をパクパクとさせているが固まったまま。

 これ以上特に聞くことも分からないし、働く意思があるかだけ聞いて帰らせるとしようか。


「半年前までは冒険者だったのか。金をどれくらい稼いでいたか分からないが、この店が出せる給料は最低賃金に近い額。それでもまだこの店で働きたいか?」

「……まだ思っている」

「分かった。採用するかどうかは話し合って決めるから、明日同じ時間にもう一度来てくれ。その時に合否の結果を伝えさせてもらう」

「明日の今日と同じ時間。分かった」

「それじゃ、今日は帰っても大丈夫だ」


 俺がそう伝えると頭だけ軽く下げてから、店を出て行ったヴェラ。

 面接時間は僅か三分ほど。

 こんな面接でいいのか分からないが、レスリーが何も喋らないのだから仕方がない。


「おい、レスリー。何しているんだよ」

「……わ、悪い! まさか本当に女の子が来るとは思ってなくて、何一つとして言葉が出てこなかった! 聞こうと考えていたことも男相手に用意していたものだったからよ!」


 そう弁明してから、深々と俺に向かって頭を下げて来た。

 よくこれで十年も道具屋を続けてこれたなと思うが、接客とはまた別のものではあるからな。


 今まで一人で切り盛りしてきたと言っていたし初めての経験だというのは分かるが、一言も発さないのは流石に酷すぎだ。

 俺は大きくため息を吐きつつも、なんとか収まった訳だし気を取り直してヴェラについて尋ねる。


「それでヴェラはどうだったんだ? 不愛想だったけど働く気はあるみたいだし、女性だけど元冒険者みたいだから何かと安心できそう――とは俺は思った」

「俺は即採用で良かったぜ! ジェイドが追い返しちまったから伝えられなかったけどな!」

「タイミングはあったんだから追い返す前に伝えてくれ。面接の質問なんて分からなかったし、不採用の可能性も少しはあると思って一度帰らせたんだ」

「女性で若いだけで即採用なのに、美人ときているからな! あれだけの逸材を不採用にはしない!」

「なら明日伝えてやれ。俺はもう帰ってもいいか?」

「ああ! ジェイド、本当に助かった! この分もキッチリと今月の給料に上積みするからな!」


 給料アップは嬉しいけど、レスリーが固まり俺が対応するハメになったから変に疲れた。

 こういうことならば、事前に俺に面接をやれと命令してくれていた方がまだ良かったが……。


 レスリー自身も固まってしまうとは想定していなかっただろうし、今更考えても仕方がない。

 今日はゆっくりと休んで、明日に備えるとしよう。



 面接を行った翌々日。

 昨日の終業後に改めて訪ねてきたヴェラに採用を伝え、無事に今日から一緒に働くことになった。


 俺にとっては一応初めての後輩になる訳だが、俺自身も働き始めたばかりだし忙しくなってきてからは配達しかしていない。

 ヴェラも上下関係を重視しない性格に思えるし、フラットな関係を築ければと思っている。

 そんなことを考えて店の中に入ると、普段よりもしっかりと服装のレスリーがキメ顔で俺の方を向いていた。


「……どうしたんだ? そんな変な顔をして」

「なんだ、ジェイドかよ! ヴェラちゃんが来たのかと思ったのによ! ……って、変な顔ってなんだ!」

「いつもよりも随分と服装とか髭とかも整っているけど。ヴェラが今日から働くからか?」

「当たり前だろ! これから一緒に働くのに、臭いとか不潔とか思われたくないしな! ただでさえ最近は、寝起きの匂いが自分でも分かるぐらい酷いからよ!」

「そういうもんなのか? でも、毎日やらないといけないとなると大変だと思うけどな」

「それはそうだが……大変さよりも変に思われる方が嫌だろ! ジェイドは普段と何も変わらないな!」 

「俺はそういうのに疎いから知らなかっただけだ。とりあえず開店の準備をしよう」


 それから俺とレスリーでいつものように開店の準備を始め、そして開店時間の三十分前。

 ようやくヴェラが店に顔を見せた。


 開店の三十分前には来てくれと伝えてはいたが、本当に伝えた時間ピッタリにやってくるとはな。

 性格から考えても早めに出勤するとは思っていなかったし、まぁ遅刻しないだけ全然マシだと思おう。

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