第23話 面接
一日で三十人という『シャ・ノワール』の過去最高の来店客数を更新した日から、更に一週間が経過。
客数の増加は完全に止まってしまったものの、それでも一日に二十人~三十人のお客さんが安定して毎日来てくれている状況。
俺もレスリーも忙しさで休む暇なく働き詰めの毎日を送っていたが、とうとう一週間前に貼った求人広告を見た人が応募してきてくれた。
「なんだかそわそわしちまうぜ! 改めて面接をするってなると緊張してくるな!」
「別に緊張することないだろ。申し込みに来た時に一度会っているんだろ?」
「いや、それが会ったことはないんだわ! 昨日、求人広告を見た両親が応募してくれただけで、本人はこれから会うのが俺も初めてだ!」
「本人じゃなくて両親が応募してきたのか。確かにそれはちょっと不安にはなってくるな。採用基準は決めているのか?」
「この一週間で応募してくれたのは今から面接する一人だけだったし、大抵の人間なら採用するつもりだぜ! ジェイドを雇った時点でそこら辺の敷居は大分低いと俺は思ってる!」
確かに俺を雇ったということは、余程変な人間でなければレスリーは採用するだろう。
不潔で三十代後半の職歴なしの無職。
スタナの功績が大きかったとはいえ、赤字になるのにも関わらず雇ってくれたのは、今考えてもおかしいと雇ってもらった身だが思ってしまう。
「それはそうだな。俺を雇ってくれた時点で大抵の人間なら雇いそうだ」
「そういうことだ! ……ただ、できれば女の子がいいんだけどな! 還暦近いじじいと四十近いおっさん二人ってのは、絵面的にも良くないと感じているしよ!」
「看板も店の雰囲気もお洒落な感じなのに、店にいるのが俺とレスリーってのは確かに拍子抜けされるかもな。俺も初めてここに来た時にレスリーを見て拍子抜けしたし」
「おいっ! いきなり働かせてくれと言ってきたのに、心の中ではそんなこと思ってたのかよ!」
「店が無駄にお洒落なのが悪い。武器屋とか鍛冶屋で働いていそうな見た目なのは自分でも分かるだろ。……まぁ俺も人のことを言えない見た目をしているけど」
そう考えるとレスリーの言う通り、客を定着させるというためにも女性の店員が欲しいところ。
女性じゃなくとも、せめて若い人が来てくれると店としてはありがたい。
「俺はお洒落な店が好みなんだから仕方ねぇだろ! それに年を重ねれば自然と筋肉が萎んでいい感じの容姿になると思ってたんだ! 十年前はな!」
「スキンヘッドなのに剛毛な時点でそれはあり得ないだろ。というか、その筋肉量で筋トレを一切していないのか?」
「……いや。冒険者時代から日課となっていたし、やらないとムズムズするから続けている! 防犯のためにも強い方がいいしな!」
「それじゃ、絶対に筋肉が萎む訳がないだろ」
俺に力こぶを見せつけてきながら、自信満々にそう言ってきたレスリーに思わず呆れてしまう。
とりあえずレスリーの計画性のなさは理解できただけで、面接に来る人についてはあまり話が進まなかったな。
若ければ問答無用で雇うべき――というぐらいだろうか。
「とにかく女性もしくは若い人だったら雇っていいと思うぞ。面接の結果がどうだったか明日聞かせてくれ」
俺はそう告げ、『シャ・ノワール』を出ようとしたのだが……。
レスリーは帰ろうとする俺の肩をガッチリと掴んできた。
「今日は帰らずに残ってくれ! 俺一人で面接なんてできる訳がないだろ!」
「いや、できるだろ。俺が働きたいと言った時と同じ感じでいいと思うぞ」
「あの時は雇う気なんて更々なかったから普通に会話できただけだ! 今回は雇うつもりでいるし、相手の性別も年齢も分からない! 確実に失敗するぞ!」
「接客はできるんだしそんなことないだろ。それにさっきも言った通り、俺とレスリーの二人が並んでいたら萎縮してしまうだろ? そっちのが駄目じゃないか?」
「働くとなれば毎日俺とジェイドと顔を合わせるんだし、その程度で萎縮されたら働けないだろ! ちゃんと残業代も払うから一緒にいてくれ!」
確かにレスリーの言っていることに一理あるし、ここまで懇願されてしまったら断る理由もない。
どんな人なのか、俺も気になってはいたしな。
「分かった。残って一緒に面接を行う。俺は隣で座っていればいいんだよな?」
「本当に助かるぜ! ああ、基本的には俺が一人で受け答えを行う! 何か起こった時にだけサポートしてくれ」
そんなこんなでレスリーと面接を行うこととなったため、応募者が来るまで軽い雑談をしながら待っていると、数十分ほどして既に閉まっている店の扉がノックされた。
俺とレスリーは顔を見合わせ、一度頷いてからレスリーが返事をした。
「は、入って大丈夫だ」
そんな言葉を聞いたであろう応募者が扉を開け、店の中へと入ってきた。
入ってきた人物は俺達が待ち望んでいた女性。
それもかなり若く、顔立ちもかなり整っている気がする。
「親が面接の応募をしたと思うんだけど、この店で合っている?」
「……………………」
レスリーは目を見開いて固まっており、何度か肘打ちしたが一向に返事をしない。
軽くため息を吐いてから、俺が返事をすることにした。
「ああ、合っている。そこの椅子に座ってもらって大丈夫だ」
「分かった」
言葉遣いは気になるし、まだ挨拶しかしていないが即採用で良い気がしてきた。
この女性が固まっているレスリーを見てもなお、まだ『シャ・ノワール』で働きたいと思ってくれているのであればだがな。
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