第22話 嬉しい悲鳴
様々な店を巡り、ビラを貼って回った日から一週間が経過。
ビラの宣伝効果は想像以上で、以前まで一日に十人の客が来ればいい方だったが、今日はなんと三十人の客が来店した。
非常に嬉しいことなのだが困ったこともあり、急に忙しくなりすぎているということ。
当たり前なのだが客が三倍にまで膨れ上がると、仕事量も三倍に跳ね上がる。
配達サービスの受注も更に増加し、俺でも就業時間の半分は配達に費やさないと捌き切れない量。
客に冒険者が増えたことで客単価は上がったのはいいが、正直全ての作業を完璧に行えきれていないのが分かる。
「本気で忙しすぎるぞ! 嬉しい悲鳴なんだが、ここまで一気に客が増加すると所々ミスが生じてしまうな!」
「俺が思うに、配達サービスの手間が大きいように思う。商品と住所を聞き、配達の準備を行ってから配達。俺がもっと宣伝するように言っておいてなんだが、やっぱりそれ相応の手数料は取るべきだと思うぞ」
配達を行う俺だけでなく、手続きや配達の準備を行うレスリーの負担も大きい。
そのせいで業務が滞ってしまっており、焦ってミスをするというのが最近は非常に多いのが現状。
「それは分かっているんだが、今更手数料を取りますなんて言いづらいんだよな! 閑古鳥が鳴いていた時に贔屓してくれたお客さんばかりだしよ!」
「なら、せめて新規の客からは手数料を取ろう。それと、従業員も新たに雇ったらどうだ? 時期尚早かもしれないが最近は客が客を呼んでいる状況で、これ以上客足が伸びてしまったら確実に店が回らなくなるぞ」
「確かに……。今はまだ店番の方は一人で回しきれているが、これ以上客が増えたらパンクしちまうよな! ジェイドには配達を全て担ってもらっているし、もう一人従業員を増やすべきなのか……」
店主としては重大な決断なようで言葉尻を濁らせているが、従業員を増やすほど客足が増えていることへの嬉しさからか口角は驚くほど上がっている。
少し前までは俺を雇ったせいで赤字だったから、レスリーがこの表情になってしまうのも無理はない。
「手数料を取ればもっと利益が増えるだろうし、冒険者が量を買い込んでくれているから客単価も増加傾向。もしここから客足が減少したとしても、一人分くらいの給料ならしばらくは余裕を持って払えるだろうし増やしていいと思うぞ」
「……よしっ、それもそうだな! このままじゃジェイドに休みを与えるのも難しい状況だし、ここはいっちょ新たな店員の募集をかけるか!」
「なら、早速求人広告の作成からだな。雇うのは一人だけだし、シンプルなものを店内にひっそりと貼り出すだけでいいと思う」
「そういうことなら、ささっと書き上げちまおう! へっへっ、まさかジェイドの他に従業員を雇うことになるとはなぁ! 十年以上この道具屋を営んできたが、ここまで好転するとは微塵も思っていなかった! 全部ジェイドのお陰だ。ありがとな!」
紙に従業員募集の文字を書きながら、俺にお礼を伝えてきたレスリー。
俺がやっていることといえば配達ぐらいなのに、事あるごとにお礼を伝えてくるため変な感覚になる。
そもそも元々良い店だったのを、俺は周知させる方法を提案しただけ。
人気になる土台を作ったのは間違いなくレスリーだし、俺は配達は頑張っていると思うがほとんど何もしていない。
「お礼なんかいらない。元々これぐらいの客を呼べるポテンシャルがあったってことだからな。勝負はここからだし、何度も言うが繁盛店になってからお礼を言ってくれ」
「俺はもう繁盛店のつもりなんだが、まだまだ上を目指してんのかよ! ……まぁとにかく、今月の給料は期待していいぞ! 最低賃金ってことだったが、頑張ってくれた分はしっかりと弾むからよ!」
「給料を多く貰えるのは嬉しいことだが、そこまで頑張らなくて大丈夫だぞ。しっかりと軌道に乗ってから給料を上げてくれればいいから」
「いいや、頑張りにはしっかり報いたい! ジェイドに甘えてばっかりって訳にはいかないからな!」
そんなこんな閉店後にレスリーが求人広告の作成をしているのを見つつ、『シャ・ノワール』今後についてを語り合った。
新たな人と一緒に働くのは楽しみだし、この店がより発展するように益々頑張らないといけないな。
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