第193話 別組織


 とりあえずマイケルには椅子に座らせ、俺はベッドに腰をかける。

 てっきりエイルのことを尋ねにきたと思っていただけに驚いたが、まずは話を聞いてみないと何も分からない。


「怪しい人物ってどういうことだ? 『都影』とは別の人物なのか?」

「『都影』の可能性もあるとは思うが、私は別の組織だと思っているよ。この間話してくれた別の組織と睨んでいる」

「そう思う理由は一体なんだ?」

「不審な人物として目撃情報があったのは三人。そして、その三人とも相当な実力者だということが分かっているのだよ。君の話が本当ならば、その別組織に属している人間は実力者が多いのだろう? その点から私は『都影』ではないと睨んだのだ」


 怪しい人物を三人見かけ、その三人全員が実力者ならば別組織の可能性は高い。

 本当に実力者だったかどうかだけは気になるが、マイケルの情報はいつも正確だったしこの部分は疑わなくてもいいだろう。


「その情報が本当なら、絡んではいるかもしれないが『都影』でない可能性の方が高いな。ちなみにその三人組はどこで目撃したんだ?」

「制圧した『都影』のアジトだよ。封鎖も兼ねて私の部下を配置していたのだが、その部下が怪しい三人を目撃した。元ミスリルランク冒険者の優秀な部下だから、見間違いに関しては疑わなくて大丈夫だね」

「なるほど。そいつらが別の組織ではなかったとしても、『都影』の構成員であることは間違いないな。何にしても早急に調べないとまずい」


 レッドの『都影』はヨークウィッチから手を引く発言からも、マイケルの言う通り別の組織である可能性の方が圧倒的に高い。

 何にせよ、詳しく調べてみないと分からないな。


「ああ、そういうことだね。狙いが何なのかは私には分からないが、君を狙っている可能性は十分に考えられる。こんな時間に訪ねてきたのは、狙われている可能性があるから命には十分に気をつけて欲しいということを忠告をしに来たのだよ」

「それでこんな早い時間にわざわざ来てくれたのか。伝えにきてくれてありがとう。十分気をつけさせてもらう。俺の方でも調べておくから何かあったら共有する」

「組織の規模も分からないから、君が調べるのはやめた方がいいと思うがね。冒険者ギルドも動くつもりだから、狙われている君は命を最優先に動いてほしい」


 命を最優先に……か。

 今まで言われたことのない言葉に、少し変な感じがする。


「分かった。十分に気をつけながら動く」

「そうしてくれると私も安心だね。あー……それともう一つ話があるのだが、ギルド長は知らないかね? この組織とは関係ないと思うが、数日前から姿が見えないのだよ」


 ここでようやくエイルの話題が出たか。

 やはり何も言わずにベニカル鉱山に行き、昨日も顔を見せないまま終わったんだな。


「知っているぞ。訪ねてきた理由はエイルについてだと思っていたしな」

「それは本当かね! ギルド長は一体どこで何をしているのだ?」

「俺と一緒にベニカル鉱山に行っていたんだ。マイケルもメタルトータスの話が出た時はいただろ?」

「……なるほど。二人でメタルトータスを捕まえに行っていたのか! 別に行くのは仕方ないにしても、私に一言声を掛けて欲しかったね」

「俺が聞いた限りでは伝えたと言っていたんだがな。それと戻ってきたのは一昨日の昼だぞ。昨日の朝にギルド長室でエイルと会ったし、マイケルがまだエイルと出会っていないのがおかしいぐらいだ」


 俺がそう伝えると、両手で頭を抱えだしたマイケル。

 マイケルにとっては別組織よりも、エイルのことの方が何倍も頭を抱える案件だろうな。


「一昨日の昼に帰ってきて顔を見せていないのには驚いたね。本当に少しくらいはギルド長として責任を持ってもらいたい」

「一緒に行った俺が言うのもアレだが、マイケルは色々と大変だな」

「慣れている気でいたが、やはり何年一緒にいても慣れないね。……とりあえずギルド長についての情報提供感謝するよ。この後、宿泊している宿にでも行ってみることにする」

「ああ。いると思うから行ってみた方がいい」

「とりあえず君は命を大事に動くのだよ。何か分かればまた訪ねさせてもらう」

「俺の方も何か分かれば、冒険者ギルドに行かせてもらう」


 お互いにそう言葉を交わしてから、お疲れ気味のマイケルを部屋の外まで見送った。

 エイルのことも色々と気にかけてあげたいところだが、俺は別組織についてを考えて方がいいだろうな。


 『都影』が本当に手を引いているのであれば、その別組織がヨークウィッチに現れた理由は俺が狙いの可能性が高い。

 そうだとしたら、アバルトやシャパルら四人組の実力を考えるに俺まで辿り可能性は十分に考えられる。


 見つけられる前に先に俺がその別組織を見つけ出し、こちらから先に動き出したいところ。

 『都影』が一段落ついたと思ったのに、また新しい厄介ごとが舞い込んできた。

 俺が首を突っ込んでいるせいもあるが……周囲に迷惑をかけないためにも早急に動こう。


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